3.20.2021

[theatre] Angels in America

National Theatre at Homeに来ていたので3月13日、土曜日の昼にPart Oneを、14日の昼にPart Twoを見ました。

Tony Kushnerによる93 - 94年に上演されたAIDS時代のアメリカを描いた大作で、Pulitzer Prize for DramaとかTonyとか沢山受賞していて、2003年にはHBOでMiniseries化されて(監督Mike Nichols, キャストにAl Pacino, Meryl Streep, Emma Thompson, Jeffrey Wrightなど)、National Theatreで2019年にリバイバル上演された時は見に行こうか割と悩んで結局行かなかったやつ。やはり見に行くべきだった。

Part One: Millenium Approaches(3時間11分)

85年のNY、棺を前にラビ(Susan Brown)が移民としてやってきて懸命にここで生きたすべてのユダヤ人女性をLast of the Mohicansとして、それを受けいれたアメリカも含めて讃える。

そこから裁判所の事務所にいる見習いでモルモン教で共和党員でレーガン支持のJoe (Russell Tovey)とその上で司法界では相当なパワーのあるらしいRoy (Nathan Lane)からワシントンD.C.に行ってみないか、と言われて、Joeは妻の Harper (Denise Gough)がいて置いていけないから、って断る。
ブルックリンのアパートでひとりぼっちのHarperがぶつぶつ - このままではいけない - 旅に出よう!って独り言を言うと、どこかから男の声がミレニアムは近い終わりがやってくる、って返してくる。

部屋に男がふたり - Prior (Andrew Garfield)とLouis (James McArdle) – がいて、さっきの葬儀はLouisの祖母ので、Priorは腕の痣のようになった注射痕を見せて、これがAngel of deathだ、ぼくはもうじき死ぬんだって、Priorは自分がAIDSであることを知っていて絶望の底にいる。

そこからJoeのワシントンD.C.行きの話を巡るRoyとJoeの仕事上の関係、JoeとHarperの見事に失敗した夫婦関係を巡る修羅場があり、友人を救えなくて絶望しているLouisのラビへの告解があり、そんな彼(だけじゃない他の病人ぜんぶ)をケアする元ドラァグクイーンのBelize (Nathan Stewart-Jarrett)がいて、LouisとJoeの出会いとお互いにとってありえない恋が始まり、関係の糸がぐじゃぐじゃに撚れていって、ベッドから動けないPriorと彷徨い続けるHarperが(薬のせいで?)チャネリングしたり、鯨油を売っていたPriorの先祖が現れたり、なんでもありそうなのだが、誰もが苦し紛れにここではないどこかの新たな土地とか出会いを求めて地表を這いまわる。

やがて自分が同性愛者であることを自覚したJoeがユタに住むガチのモルモン教徒の母 - Hannah (Susan Brown)に悩みを打ち明けたら彼女は家を売って腕まくりしてNYにやってきて、「正常者」としてひと騒動起こすのと、AIDSを発症して悪化していくRoyは訴訟を抱えた状態で死ぬのは嫌なのでなんとしてもJoeにワシントンD.C.に向かってほしいのだが聞いて貰えなくてがっくり崩れ落ちると、その死の床に彼がスパイ容疑で処刑したEthel Rosenberg (Susan Brown)の亡霊がじっとりと現れる。

最後に病に苦しむPriorの元にThe Angel (Amanda Lawrence)の声が聞こえてきて、おまえはLazarusだとか預言者だとかお告げをして、やがてメッセンジャーであるThe Angelの羽が天井突き破って火を噴いて”very Steven Spielberg”な顕現をする - Priorは「わぉ」しかない。

Angels in America Part Two: Perestroika
(3時間48分)

1985年のクレムリンで、最古のボルシェビキが根っことなるべきセオリーの不在を嘆いているところから始まって、The Angelからのお告げでなにかに目覚めたPriorの探求の旅と南極からプロスペクトパークまで幻覚込みで彷徨って姑Hannahに保護されたHarperが交錯し、病院に入ったRoyはBelizeに看病されEthelの亡霊に悩まされながら自分の政治力を使って実験薬AZTを悪賢く入手するがJoeからも見放されて、LouisはJoeの過去の裁判記録を知って彼を見放して、Part Oneで縒り合されたいろんな糸がぷちぷち切れたり再接合されたり。みんな更に孤立したり自棄になったりしていく。

そこらじゅうにげろげろ吐きまくるThe AngelがPriorに告げた天国はSFに似ていて、でも1906年の大地震で神は人類を捨てたのだと、人類が進歩するためには動いてはならぬのだ、と。それって死ねってことかよ、って。(ここに出てくる天使はベンヤミンがクレーの「新しい天使」について書いた過去に積みあげられた瓦礫と破局ばかりを見つめている後ろ向きなやつ、よね)

こんなふうに物理的な場所はPriorのベッドとRoyのベッド、人間関係はケアする人(ドラァグクイーン、モルモン教徒、亡霊だの天使だの)とケアされる人、のように狭められていくかに見えて、彼らの歌や語りはNYを越えて南極からSFから冥界までとてつもない広がりを見せて、Royの罪と罰、JoeとLouisとPriorの三角恋模様も戦後アメリカの保守のありようの中で改めて再考を迫られる。それらの中心にあるのがAIDSという(レーガン政権が見放したことで被害が広がった)死に至る病 - アメリカの破局 - であった、ということ。

最後は格闘の末にThe Angelが開いた天国への階段を昇ったPriorが、神々との取引の果てに得たものとは..

エピローグは1990年の(アメリカだけではない)世界で、ペレストロイカを経てひょっとしたら、の世界が見えたりするのは意外だった。でもこれが1993年 - クリントン政権に移行した直後 - に発表されたことを考えると少し納得できるかも。絶望の鍋の底が抜けて突然光が射してくる意外さ。

Part Oneで民族の水平移動とそれに伴う宗教の横展開がもたらす災厄の舞台となるアメリカを描き、Part Twoで縦揺れの地震を起点とした世界の終わりを地表と天界の垂直のドラマの中で描いて救済とはなんなのか、そこにおける天使さまって? を問う。サブタイトルは多民族と宗教と病気(の歴史)、とか。

とてもおもしろかったのでHBOのシリーズの方も見てみたい。
見終わって思ったのはベンヤミンのほかにR.W. Fassbinderの『ベルリン・アレクサンダー広場』(1979) だった。なんとなく。特に終わりのほう。

これの改訂増補版がCovid-19 & パンデミック下のアメリカで描かれなくてはならないのかも。もっと暗くて陰惨で、天使なんてとうにどこかに消えてしまった世界のー。

役者さんではやはりAndrew GarfieldとNathan Laneが圧巻だった。ライブで見たかったなー。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。