3.19.2021

[film] Judas and the Black Messiah (2021)

3月12日、金曜日の晩、BFI Playerで見ました。

もうじきのオスカーにあれこれノミネートされていて、同じくノミネーションが多い“The Trial of the Chicago 7”とほぼ同じ時代の – ここにもFred Hamptonとその暗殺の件は出てくる – シカゴの - Based on the True Event  - 映画。

60年代終わりのシカゴでWilliam “Bill” O’Neal (Lakeith Stanfield)が盗んだ車とFBIの偽のバッジでバーで呑んでいた連中に突っかかってみるが逆にぼこぼこにされて警察に突き出される。 彼の担当になったFBI捜査官のRoy Mitchell (Jesse Plemons)は車盗難はそうでもないけど、偽バッジの件は相当に罪が重い – それを軽くできる手があるけど興味はないか? と話を持ち掛ける。

こうしてシカゴのBlack Panther Party (BPP)のリーダーだったFred Hampton (Daniel Kaluuya)の運転手として、やがては彼のボディガード~ 支部のセキュリティ担当として党の内部に入りこんだBillは内通者としてRoy = FBIに内部事情を報告していくことになる。

それと並行してFredのBPPのリーダーとしての魅力やカリスマ性 – 対立するグループとの和解に向けた行動とか演説の力強さ – が運動の盛りあがる波飛沫と共に描かれて、その横で彼女となるDominique Fishback (Deborah Johnson)との出会いから妊娠に至る素敵なラブストーリーとして流れていく。

FBIは長官のJ Edgar Hoover (Martin Sheen)からRoyに至るまでどこまでもダークでえげつなく、でも盤石でもなくて、自分の娘が黒人の彼を結婚相手として家に連れてきたらどうする? という踏み絵質問にはRoyも答えに詰まってしまったり(ひどいなー)。

ドラマの軸はBPPの内部に入りこみ、Fredの傍にいて彼に接すれば接するほど、自身がFBIのスパイである(Fredを裏切り続けている)という罪の意識といつか内部から外部から正体を暴かれてしまうのではないかという恐怖と、でもこれを止めたらあっさり牢屋行き – の間で引き裂かれて孤立していくBill = Judasの煩悶と、かと言ってどうしろというのか、の生々しい日々を追って、やがて活動とFBIの武力衝突が激化していく中、Royは“more creatively”に次の手を打たねば、ということである計画を..

こうして、BillはFredの飲み物に薬を入れて彼を動けなくしたところにFBIが急襲をかけて... このシーンは史実であるにしてもあまりにも酷いし怖いし。これの裁判に12年掛かったというところも。

あと、この時点で、実際のFredは21歳でBillは17歳だったって…(まだ子供同士じゃん..)

ドキュメンタリーの”MLK/FBI” (2020)でもMLKの周囲にいたFBIのインサイダーのことが指摘されていたが、この時期のFBIはどれだけおぞましいことをしていたのか、ラストに出てくる89年のPBSでのBillのインタビュー映像を見て、彼のその後のことを知ると、その罪深さにぐったりする。

こういう裏切りのドラマが活きるのって最近のだと”The Departed” (2006)にあった警察とギャングのような正義と悪とか色分けが明確な組織の間で、という気がするが、ここのBPPは悪の組織でもなんでもない、Billからすれば自分の背筋を支えてくれるところだしFredは自分にもよくしてくれるのだし、そんな彼らをなぜ? というのはある。お金と自由を握られて挙動を見張られている - BPPの演説会場でFredの前にボディガードとして立つBillとその演説を聞きにきたRoyの切り返しにそんな彼の迷いと辛さがぜんぶ透けて見えてしまう。

という点も含めて、これは俳優の映画でもあって、主役のDaniel KaluuyaもLaKeith Stanfieldも絡み合うところを避けて常に一定の距離を保とうとする、その足の置き方がそれぞれに力強い。まさにJudasとMessiahのありようそのもの。Daniel Kaluuyaさんは、”Widows” (2018)のやくざも、”Queen & Slim” (2019)の逃亡者も見事だったが、輪郭がくっきりと残る演技をする。 あとDominique Fishbackさんの柔らかい笑顔。あのふたりだけのドラマが見たくなるくらい素敵なふたりだったのにー。

Craig HarrisとMark Ishamによるしっとりした音楽もすばらしい。

“The Trial of the Chicago 7”(は少し違うが)も、”One Night in Miami…” (2020)も、”Ma Rainey's Black Bottom” (2020)も、(もうTVでやっているのでこれから見る)“The United States vs. Billie Holiday” (2021) もアメリカの歴史のなかの人種差別をどういうふうに描くか、というテーマについてある視座を提示していると思って。どれも舞台劇にできそうな構造を持っていて、これらがここ1〜2年で出て来ているというのは興味深い - 必然。


本日公開の“Zack Snyder's Justice League”を見た。 4時間長い。
そのうちなんか書くかもしれないけど、「ペットセメタリー」も「ドフトエフスキー」もなかった。
しかしなー、ここまで違うものを作れるのならEP9もなー。

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