3.01.2021

[film] Arsenic and Old Lace (1944)

2月21日、日曜日の晩、Criterion Channelで見ました。
いまここでは”Cary Grant Comedies”っていう特集がかかっていて、彼のコメディはBFIの特集でそれなりに見たつもりだったのだが、60年代のとか、まだ見ていないのがいくつかあった。これはそこからの1本。 

監督はFrank Capra。邦題は『毒薬と老嬢』。Joseph Kesselring作の同名舞台劇がベースで、舞台の方はブロードウェイで1941年から1944年まで上演されている(当たった舞台)。

結婚なんて、って散々バカにしてきた演劇ライターのMortimer Brewster (Cary Grant)がブルックリンの実家の隣に住む幼馴染のElaine (Priscilla Lane)と結婚して、ハロウィンの日にハネムーン(ナイアガラに行く)の荷造りと挨拶のために彼の叔母たちが暮らす実家を訪ねる。 ハロウィンの一晩だけ、一軒家のなかだけで起こるどたばた劇。
 
そこにはAbby (Josephine Hull)とMartha (Jean Adair)のふたりの老姉妹と自分をずっとTheodore Rooseveltだと思いこんでいる兄のTeddy (John Alexander)が暮らしていて、彼はなにかを頼まれる都度「チャージ!」って叫んで階段を駆けあがって突撃するのでなかなか面倒でやかましい。

探し物をしていたMortimerはたまたま窓際の箱椅子の中に死体が転がっているのを見つけてしまってあわあわしながらAbbyとMarthaに聞いてみると、身寄りのない独り身老人にヒ素とかが入ったワインを飲ませて成仏させているのだ、って。そういう善行を施してあげたのが地下に12人程いる、Teddyにパナマ運河の建設工事で亡くなった人だっていうと彼が運んでいってくれる、などとあっさり教えてくれる。

びっくりしてほぼ死にそうになっているMortimerのところに今度は2人の男が現れて、ひとりは弟のJonathan (Raymond Massey)で、もうひとりは医者のDr. Einstein (Peter Lorre)で、彼らも姉妹と同じくらいの数を世界中で人を殺してきた凶悪犯で、ここにも死体を運んできていて、これを隠すのとしばらく匿ってもらうために来たつべこべ言うな、と。 Jonathanは顔が随分変わってBoris Karloffみたいになっている、というとDr. Einsteinがいっぱい整形したからだ、って(舞台版ではほんもののBoris KarloffがJonathanを演じたんだって)。

自分たちの聖なる死体たちに彼らの得体の知れない死体を混ぜるのは許せないって、姉妹は憤るのだが、問題はそっちじゃないだろとか、それよりElaineとのハネムーンはどうするとか、いやこんな狂人だらけの家系にいる自分なのだから結婚なんてしちゃいけないだろとか、爆発寸前のところに今度は警察がやってきて、なんとか彼らに伝えたいのだが、地下の置き場を見られたら全員逮捕だろうし、でも逮捕というよりこいつら全員施設に入れたほうがだし、どうするどうする、ってひとり悶死しそうになる。

周囲が殺人鬼だらけ、というより全員が穏やかな確信をもって人を殺していたり自分はルーズベルトって信じこんでいたりの頭のおかしい人たちで、そこでは自分ひとりだけ(たぶん)正気で、すぐ隣には結婚したばかりの更にまっとうな妻もいるのだが、彼女に(も他の誰にも)この状況を正確に伝えることなんてできやしない(状況だけに)、そういうところに置かれてしまった男のコメディ。

結婚を目前にして将来も約束されている男が変な女とか豹とかに絡まれて大変な目にあうCary Grantのコメディ、というと大傑作の“Bringing Up Baby” (1938) - 『赤ちゃん教育』があるが、今回の彼は少しひねくれた性根のライターで、絡んでくる相手はみんな肉親だったりするのでたちが悪くて、彼の狂いっぷりもブチ切れる一歩手前のやばいところに行くのでおもしろい - ただ真面目なひとが見たら不謹慎な、になる可能性はじゅうぶんにありそうな。

Frank Capraの前作は”Meet John Doe” (1941)で、これは自殺をテーマにした結構重い人間ドラマで、その次の作品がこれで、この後には第二次大戦のドキュメンタリーを沢山撮って(どれも未見)、戦争があけて作られたのが”It's a Wonderful Life” (1946)になるって、この辺の変遷というか経緯が興味深い。知りたい。

映画が公開された時にアメリカは第二次大戦に参戦していたわけで(舞台版はもっと長く終戦間際まで)、この時期のアメリカ映画についていつも思うことだけど、戦時下によくこんなの作って笑っていたもんだよねえ、って。おもしろいからいいけど(おもしろけりゃいいのか! って怒るひとがいるけど、いいんじゃないの)。


もう3月になってしまったのかー。 あーあ。(しかでない今日この頃)

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