3.13.2021

[film] 一代宗師 (2013)

3月4日、木曜日の晩、BFI Playerで見ました。Wang-Kar-Waiの4Kリストア版を見ていくシリーズ。

英語題は”The Grandmaster”。英語題も邦題もほぼその通りなのだが、『グランド・マスター』って中ぽちを付けるのはいいの? 酒類の名前みたいじゃない?

これは、日本公開された時に劇場で見ていて大好きだったので、他のを飛ばして再見したかった。

南の方のIp Man (Tony Leung)は、幼いころから詠春拳の修業に励んでZhang Yongcheng (Song Hye-kyo)と結婚して子供もできて香港で幸せに暮らしていたのだが、北の八掛拳のグランドマスターGong Yutian (Wang Qingxiang)の引退に伴う跡目争いの中で、統一流派の統一後継を決めたいので南の方でも候補を出せ、と言われる。 南は当然Ip Manに決まりで、いろんな流派の候補と闘って、でも彼は圧倒的に強くて、最後はGong Yutianとの組み手ではない頓智合戦みたいのでIp Manが統一会派の後継に選ばれる。

これが気に食わなかったのがグランドマスターの娘で奥義六十四手の継承者であるGong Er (Zhang Ziyi)でIp Manに果たし状を送って遊郭「金楼」でふたりの決闘が始まって、ぎりぎりすれすれでどっちも繰り出す技が速すぎて何が起こっているのかわからないくらいすごい戦いなのだが、家具を壊したら敗け、のルールで踏みしめた床を少し壊してしまったIp Manの敗け、ということになる。

これらの戦いの前から始まっていた日本軍の侵攻で拳法どころではなくなって、Ip Manは日本軍への協力を拒んで子供を失い極貧の生活を強いられる。Gong Yutianの娘のErは医学の道を志して、息子のMa San (Zhang Jin)は日本軍に協力して勢力を広げるのだが調子にのるなって父から破門され、更には闘いに挑んで父を殺してしまう。

復讐に燃えるEr(と爺と猿)はクリスマスイブの晩に駅のホームでMa Sanと死闘を繰り広げて列車頭がりがり拳で仇をうつのだが、彼女自身も痛手を負って治療を通してアヘン漬けになってしまう。そんな彼女はIp Manとの間でずっと文通をして親交を深めていて、彼女の愛も告げられるし再会の場もあるのだが、再び拳を交えることはなく、なにがどうなるもんでもなく…

冒頭の豪雨の中の対決シーンに始まって、Ip ManとErの楼閣での空中戦まではほんとにすごくて釘づけで、でも後半はそんなでもなくなってしまうのは止められない時間の流れのなか主人公ふたりの回想が繋いでいく構成上仕方ないのかもしれない。

戦争を挟んだ苦難の時代にグランドマスターを目指す各流派の頂上決戦の行方を描くのでも、多様性に溢れた各流派が「統一」の名の元に潰しあって消えていくさまを描くのでもなく、それでも生き残っていく六十四手や八掛や剃刀といった型やステップの波動や息遣いとか、降り注ぐ雨に抗して真横に放射される熱線とその飛沫の軌跡とか、そういうのだけを追おうとしているかのような。

もちろんIp Man伝としては後にBruce Leeによって世界に紡がれ継承されていくマーシャルアーツやグランドマスターの偉大さを伝える必要があったのかもしれないが、無表情なGong Erが呟く「後悔のない人生なんて糞みたいなもんだ」とか「人生の一番幸せな時にこそ後ろ向きでいたい」といった方に強く惹かれて神経を抜かれる。勝ちも負けもない地表で壁をみつめてその向こうの誰かのことで静かに想い続ける - こういうのこそWang-Kar-Waiの作品を貫くテーマではないか。 と思うし、これってやっぱりIp Man伝というより、激動の時代を一度も負けることなく生きたひとりの女性の映画として見るのが正しいのではないか、って改めて。

わたしは昔のカンフー映画も大好きなのだが、これらをダンス映画として見ているのかも、って思ったのはこの映画あたりからだったかも。好きだけど血が噴き出るのとか人が痛がったり死んじゃったりするところは見たくない、という意識がそうさせているのだろうが、この点ではすばらしいダンス映画 - キスと抱擁の真逆で相手の骨を一瞬で砕く - だと思うし、ダンス好きな人に見てほしい。

とにかくZhang Ziyiがめちゃくちゃクールでしなやかでかっこいいのと、病に侵された晩年の能面のような凄まじい表情と、それだけでも。戦わせたら最強の彼女をAvengersにもX-MenにもJustice Leagueにも採用しなかったハリウッドの目は節穴だと思うし、ようやく、せっかくモスラと共演するっていうのにあんな役しか与えなかったのも犯罪に等しいわ、って。

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