3.02.2021

[film] 阿飛正傳 (1990)

2月18日、木曜日の晩、BFI Playerで見ました。Wong Kar-Waiの4Kリストア版を見ていくシリーズ。

英語題は”Days of Being Wild”、邦題は『欲望の翼』。原題をそのまま訳すと「不良伝説」? -  これって『理由なき反抗』(1955)の香港公開時のタイトルだという。 この後に『花様年華』(2000) ~『2046』 (2004)へと連なる三部作の最初の一篇だというのは知らなかった。

1960年、サッカー場のような施設のスタンドでひとりで売り子をしているLi-zhen (Maggie Cheung)がいて、そこにちんぴらのYuddy (Leslie Cheung)が現れて「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた」みたいなことをぼそっと言ってたぶらかして(詐欺だよねあんなの)自分のアパートに連れていって、恋仲になるのだが彼女が親に紹介とか結婚とか言い始めたあたりでYuddyの方の糸が緩んで切れて、Li-zhenは出て行ってしまう。

続いてYuddyは、彼の養母のRebecca (Rebecca Pan)が経営するクラブでダンサーのMimi (Carina Lau)と出会って彼女がLi-zhenと入れ替わるように一緒に暮らし始めて、こっちもYuddyの方がなんとなく続かなくて、それを嘆いて泣いているMimiのところに別のちんぴらのZeb (Jacky Cheung)が近づいていって、ひとりになったLi-zhenのところには警官のTide (Andy Lau)が声をかける。

終わりの方は実の母を探してフィリピンに旅立った Yuddyが向こうで起こす騒動と、Tideが船乗りになって遠くに行ってしまうのと、まったく関係ないところで雑居ビルのなかで荷造りをしている謎の男(Tony Leung Chiu-wai)がいるのと。

Yuddyのような一匹狼(なのかな?)のちんぴらの挙動ふるまいに一貫性やストーリーを求めることほど虚しいものはなくて、その点では、ここに描かれたYuddyはちゃんとしているのではないか。適当にその時々で気の利いた言葉を撒き散らして、女を引っかけた5秒後にはそれを忘れて、去る者は追わず、突然にぶち切れて突然に姿を消して、なんの後悔も反省もない。そんな彼が探し求めたのが実の母(父ではなく)の姿だった、というのもなんかわかる。自分をこんな世界に引き摺りだしたのは誰だ、って。

こういうのを青灰色を基調としたささくれ立ったトーンでざくざく撮ってかっこよく繋いで、”Days of Being Wild”とか言われるとそうかも”Being Wild”ってこういうやつかも、って思うし、同じように赤黄色系の色調で”In the Mood for Love”って言われると”Love”のじりじり焼けていくムードは伝わってくるし。”2046”はまだ見ていないのでわかんないけど、単純かしら?

でもここでいう”Being Wild”ってあくまで男のありようのことなんだよね。Wildであることが許されているのが片方の性のみって、自然の状態って言えるのか。もちろん野放しの自然状態ていうのとは違って、みんな髭は剃ってつるっとした顔しているし。 かつてあったそういう時代のお話。

よく言われるちんぴらとかやくざの映像における「刹那」とか「美学」みたいなところからできる限り離れてあろうとすることと、主人公たちが物理的に移動できないにしても「ここではないどこか」を黙々と求め続けて画面の向こうに消えていくことと、そういうことが森林のような雑居ビルの奥地で起こること、これらが複数の登場人物達の間にいっぺんに起こる - ストーリーではないそういう断面を切り取ったドキュメンタリーのように見ることもできる – ああみんな生きているんだわ、みたいに。 ← たぶんあんま正しくない見かた…

ある場所を、そこに生きる人々を撮りながらも、彼らの像はフィルムが回っているその時間(Days)とその反映のなかにしか存在しない。頻繁に言及されたり映しだされる時間や時計のイメージと共に、ストーリーを作る場とか感情のうねりのようなところから離れて、蛍みたいに光って消えるだけの存在なので、なんかかっこいいなーになる。

こういう見方があの時代やあの場所、あそこにいた人々に対してノスタルジックななにかを求める目線と同じなのか違うのか、たぶん見る人によっていろいろ被さってくるものもあるのだろう。それとか昔のゴダールのを見て感じるかっこいい!(あるいは恥ずかしい) っていうのと同じなのか違うのか、とか。

あ、もちろん、この後にすばらしくなっていく俳優さん達が沢山、ていうのもある。くっついて離れてばかりで、できればアンサンブルとか、地獄へ道連れみたいなところで見たかったけどー。

ここからMaggie CheungとTony Chiu-Wai Leungが香港ですれ違うまでにあと2年。


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