2.03.2021

[film] Yentl (1983)

1月26日、火曜日の晩、Criterion Channelで見ました。

Barbra Streisandの監督作3本 - どれもひどい邦題だわ - がここに来ていて1月末で見れなくなるというので31日までになんとか全部見た。 邦題は『愛のイエントル』。だけどこの映画って、イエントルが学問のために愛と性別を捨てる話だよね..

原作はIsaac Bashevis Singerの短編 - "Yentl the Yeshiva Boy"で、これを読んだStreisand は1969年に映画化権を買って、71年にはIvan Passerの監督で立ちあがるのだが、主演の彼女が歳を取りすぎているって文句つけて降りたのでBarbraが自分で監督・主演することにして、途中でミュージカルになったので歌うことにして、そんなこんなで実現迄に軽く10年以上かかっている。

音楽はMichel Legrand、撮影はDavid Watkinで、とってもゴージャスで王道でクラシックの豊かさにどっぷり浸かってうっとりできる。

この映画、英国ではなんか人気があって、2019年のHyde ParkでのBarbraのコンサートでもこの映画のことに話が及ぶと「きゃー」ってうっとりする人が周りに結構いたし(曲はやらなかったけど)、BFIでかかる時も売り切れるし、昨年BBC2で放映された際にも少し話題になった。

今回見てみて、全体としてものすごく荒唐無稽な、まったく想像の及ばない世界のお話しであるはずなのに前のめりで持っていかれてしまう、不思議な熱と普遍性を持った作品だと思った。とっても好き。

20世紀初の東欧の小さな村で、Yentl (Barbra Streisand)は本と学問が大好きな少女で、村に本屋がくると駆け寄っていくのだが、本屋からは女の子は絵本な、って決めつけられるのでむかついてて、でも大好きな父からはタルムードの講義を受けて勉強している。その父が亡くなると意を決して髪を切り男の子の服を来て、弟の名前Anshelを貰って、これが旅の途中でYentlになり、乗り合い馬車で野を越え村を越えて、(当然男子ばかりの)ユダヤ教の神学校に入学を許される。

ずっと本の虫だったので勉強はできるけど男っぽい遊びやスポーツは不可で、そのうち豪快なAvigdor (Mandy Patinkin)と親友になり更にちょっと好きになって、彼の恋人のHadass (Amy Irving)とも仲良くなるのだが、AvigdorとHadassの結婚がHadassの親からダメを出される(自殺しているAvigdorの弟の血のことで)とAvigdorは狂ったようになり、それならYentl - おまえ親友だよな、ってHadassとYentlは結婚することになって..

ユダヤ教の厳しい戒律の世界があって、それによって形成されているコミュニティとその規範があって、それに反して(女は男ではない)男Yentlとして生きること、それに反して(男のはずなのに)Avigdorを好きになること、それに反して(女のはずなのに)Hadassと結婚して結婚生活を送ること、それでもなおユダヤの神と世界観を信じること、これらの間をはらはらどきどき綱渡りしていく、全体としてはコメディなのだが、それをコメディたらしめているのはYentlの純朴な生と神への信頼と信仰があるからだと思った。 ふつうのドラマだとこのふたつが両立することはあまりなくて、信仰に殉じて全てを捨てるか、信仰を捨てて野良として生きるか、の悲劇的な方に向かう気がするのだが、ここではそうはならずに先に踏みこもうとする。映画の最後にYentlは彼らから離れるのだが、その向かう先がアメリカ大陸である、というのはおもしろい。

ナチスの迫害を逃れるように20世紀初にアメリカ大陸にやってきたユダヤ系移民も含めると大きな広がりを見せることになるJewish-Americanとしての果てしない冒険を目の前に、船の甲板で思いっきり羽を広げて歌いまくるYentlの姿がすばらしいったら。何かから解放されるお話しとなるその手前で、まず自分を解放しようと自問自答し続けた彼女/彼のトランスのお話し。ラストはトランス・アトランティックへと。

原作を無視してよくて、今リメイクできるとしたら、もういっこ、YentlとHadassが女性同士の恋におちる、というエピソードもありかもしれない - 画面を見ていると実際におちているのかな? そっちに行くのかな? って思えるところもあるし、そしたらRom-Comとしても厚みがでておもしろくなったかも。

男装ものコメディとしてはKatharine Hepburnの“Sylvia Scarlett“ (1935) - 『男装』があって、これ、失敗作と言われているみたいだけど、わたしは結構好きで、こういうのを嫌って貶す層って一定数いるかんじがするねえ。

今ってWebもあるので、性別によって勉強の機会を禁じられるようなことって(医大入試の性差別みたいのは論外として)昔よりはなくなっているのかしら? でもその分、執拗なマウントとかクソリプとか地獄の釜というか穴はそこらじゅうにあって、続けていくのはしんどい気がする。海を渡ろう。


今日はGroundhog Dayで、Philのお告げによると冬はあと6週間続くのだって。ロックダウン期間=冬と見ると結構いいとこをついているのではないか。 映画の”Groundhog Day” (1993)もTVでやっているので当然見るのだが、家で起きて同じようなWeb会議に入ったり退いたりの繰り返しって、この映画にあるのとおなじような日々だねえ。
   

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