2.25.2021

[film] Mildred Pierce (2011)

2月16日から20日まで、Amazon Primeで全5話(5時間36分)を1日1話ずつ見ていった。

James M. Cainによる1941年原作の翻訳が出ると聞いて、そういえば2011年のHBOで放映されたこのドラマは見ていなかった、と。
邦題は『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』.. 代償がどう、っていう話ではないんだけどぶつぶつ…  全部を見終わった後にMichael Curtiz監督による”Mildred Pierce” (1945) - 『ミルドレッド・ピアース 深夜の銃声』 - も再見したのでそこも含めて書く。

監督はTodd Haynesで、撮影はEd Lachmanで、この後の“Carol” (2015)で完成される1930 - 50年代アメリカの色味への探求が始まったというか – どちらもArriflexの16mmで撮っていて、この後の“Wonderstruck” (2017)では35mmに戻るので、これと”Carol”は女性映画のセットとして見てもよいのかも。

カリフォルニアのグレンデールに暮らす主婦のMildred Pierce (Kate Winslet)がパイを作っているところが冒頭で、横でふたりの娘 - Veda (Morgan Turner)とRay (Quinn McColgan) - が遊んでいて、そこに夫の Bert (Brían F. O'Byrne)が帰ってきて、もう嫌になったって付きあっていた女のところに出て行ってしまう。友人のLucy (Melissa Leo)に相談したり夫の仕事仲間だったWally (James Le Gros)に助けてもらったり(寝ちゃったりも)しつつ、生活のために職探しを始めるのだが大恐慌の時代に入っていて、彼女のプライドが許さないような仕事ばかりで悔しくて泣いて、でもやむにやまれずダイナーでウェイトレスを始める – のだがウェイトレスの仕事を見下しているVedaとの衝突もあったり。

それをやっているうちにチキンとワッフルの定食メニューと自分の得意なパイをサーブするレストランのアイデアを思いつき、客として知り合った遊び人の小金持ちMonty Beragon (Guy Pearce)やWallyの助けを借りて自分のレストランをオープンする計画を立てて着々と実行していくのだが、計画が軌道に乗り始めた頃にMontyと海辺でデートをしていて、夜に戻ってきたらRayが突然高熱を出して亡くなってしまう。この件でこの後もずっと「どこにいたのよ」とVedaからは責められ続ける。

失意のなかオープンしたレストランは繁盛して、そのやりくりで多忙すぎて構っていられないうちにVedaはハリウッドの金持ちの息子を偽装妊娠で脅迫しようとしたり手がつけられないモンスターと化していて、Montyが彼女にピアノの教師を紹介しても焼け石なので頭がいたい。

数年が過ぎて、彼女のレストランは店舗も増やして順調なのだが、家を飛び出したきりのVeda (Evan Rachel Wood)のことがずっと気掛かりで、でもある日オペラ歌手として活動していることを知ってびっくり、再会を喜んで彼女の活動を支えていくことにして、Montyとも結婚して彼の旧邸をリフォームして、すべては順調に見えたのだがこれらが彼女の店の経営を圧迫していることがわかって、そうやって頭を抱えていたらVedaとMontyが…

突然夫に去られてしまった女性が子供を養うために、プライドをずたずたにされながらも独りで生きていけるようになるまでのお話しと、その裏側でモンスターになってしまった娘への愛を貫こうとするお話しと。彼女は母として娘のためになんでもやろうとしたし、なんでもやれるようになるためにがむしゃらに働いたのだし、でもその回転数をあげればあげるほど娘は手の届かないところに行ってしまった、という悲劇。ただそれはピュアな正直者がバカを、というのとも違って、彼女は彼女で男性を巡っていろいろあったりする(いけないこと、として描いていないが、それが結果的にVedaとの溝を深くしてしまう)。

1945年版の”Mildred Pierce”は冒頭で深夜の殺人が起こって、その家から出てきたMildred (Joan Crawford)に当然スポットがあたって、我々は彼女の告白や記憶を「この女が..」という目で見ていくことになるし、ストーリー展開はその謎を紐解いていくノワール仕様だったわけだが、2011年版は30年代に若くして結婚してすぐに妊娠したひとりの女性/母親が、あの時代を生きる・生き抜くというのはどういうことだったのか、をなんのノワールもなしにストレートに描いているように思った。 Ida Lupinoの“Not Wanted” (1949)ほど過酷ではないが、男たちの都合で翻弄されていく女性たち - そこにはMildredもVedaもLucyもいる - の歩み。

そういうのとは別に、Mildredがレストランのオープン準備で買い物をしたりチキンを捌いたりパイを捏ねたり作ったりのシーンは見ていて楽しい。”Carol”でTherese (Rooney Mara)が写真を始めたときと同じようなかんじの、手仕事の歓び。

あのラストで、Mildredから吐かれる呪いの言葉、この呪いは未だにずっと続いているのだと思った。そしてこのエンディングは1945年版の夜が明けていくイメージとは全く異なる。

Kate Winsletってこういうクラシックなメロドラマのなかで、本当にすごい。”Revolutionary Road” (2008)とかも。1945年版のJoan Crawfordの娘のために自らモンスターになろうとする強さとは別の、ぐだぐだに崩れつつどうにか立ちあがろうとするかんじとか。

Carter Burwellのウッドベースで始まる音楽も素敵。

役名で、2011年版はMonty Beragonで1945年版はMonte Beragonだったのはなんか理由があるのかしら?

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