2.19.2021

[film] 花樣年華 (2000)

2月9日、火曜日の晩、BFI Playerで見ました。

アメリカでやっていたWong Kar Waiの4Kリストア版の回顧上映がBFIとICAに来ていて、ああでっかい画面で見たらどんなにか.. って嘆きつつも、とにかく見る。英語題は”In the Mood for Love”。原題をそのまま訳すと”Golden Years” – でも”In the Mood for Love”の方がはまると思う。今回の特集のなかでは誰もがまず最初にピックするであろう1本。

1962年の香港のアパートに越してきたMrs. Chan (Maggie Cheung)がいて、その隣の部屋に同じようなタイミングで越してきたChow (Tony Chiu-Wai Leung)がいる。Mrs. Chanは商社で秘書の仕事をしていて夫は日本に長期出張中で、Chowは雑誌記者をしていて、妻はやはり仕事でずっといないらしい。アパートには共用スペースのようなところがあって住人たちが麻雀していたり始終ざわついていて、噂話のようなところで誰が何をしているどんな人なのかは筒抜けだったりする。

仕事からの行き帰りで路地や階段ですれ違っているだけでも互いにどんなかんじの人なのかはわかって、そのうちMrs. Chanのハンドバッグが自分の妻のと似たやつであることに、Chowのネクタイが自分の夫のと似たやつであることにそれぞれが気付いて、もちろんだからと言ってそんなこと言えるわけでもないし、ただなにかの予感というか勘みたいのがふんわり被さってそれらがふたりの互いを見る目を少しづつ変えていく。決して恋と呼べるような何かではないがそうではないという確信も持てない。あの人は隣の部屋でひとりで何かを待っている - 自分と同じような何かを知って感じている – そういう意識というか感覚が、階段ですれ違ったり、廊下に佇んでいる姿を見たり、挨拶を交わしたりする毎にゆっくり膨らんだり、綿毛が服にくっつくみたいに引っ掛かってきて、どちらからともなく言葉を交わすようになって、外で一緒に食事をするようになって..

世界の外れのいつもの場所、いつもの時間で必ず起こる、「ただの」偶然のすれ違いや横並びをそうでないように思わせる – そうやって生じるちょっとしたズレをそうじゃない方に矯正させようとする意識の揺れ、眼差しの傾斜が、疲れた日常の繰り返しのなかでいかに”In the Mood for Love”を形作ってそこに人を囲って囚われの彼らにしていくのか。 時間のアートである映画はそのさまをどんなふうに表現するのか、って。 演劇では現すことが難しそうなやつ - 小説は得意そうだけど。

愛を求めているということとか、それぞれの連れ合いがなにをしているのかについては決して語られないし、そんなこと思いもよらない、報いも償いもなにそれ? そういう顔をしながら同じフレーム、同じ部屋に入って映り込んでいたりする。カメラとふたりを見つめる我々はふたりの間にどういうことが起ころうとしているのか、わかる。でも決定的な瞬間とか動作が映りこむことはなくて、どこまでも精巧な人形のようになっているふたりが食器とかランプシェードとか壁とか電話とかタバコまで入念にスタイリングされた状態でモデルのように路地や室内やカフェのなかに立ったり座ったりしているだけなの。

で、そこから1963年のシンガポールに飛んで、そこにいるふたりを見ると、ああやっぱり.. って思うのだが、そこでもまた”In the Mood for Love”が変奏されて。更に最後には1966年のカンボジアにいって、この三段跳びはそういうことなのか、になるのだが、あそこで封印されたものがなんなのかについては語りようがないのだ、って。 生きていたのだからよかったわ、って(← 年寄りの感想) あーでも、1966年のとこはMrs. Chanの方が真ん中に来たほうがよかったのでは、とか。

あと、最初に見たときにも思ったけど、1962年の東京を舞台にMrs. Chanの夫とChowの妻の恋物語が撮られたらおもしかっただろうなー、って。 英語題は”In the Another Mood for Love”。

こういう画面にビロードのように厚くてお菓子みたいに甘くて汁気たっぷりの南国歌謡とかNat King Coleの歌声が被さってくると頭の後ろが痺れてきて、もうなんでもどうでもよくなる。あれらが流れているカフェで1日寝て過ごしたい。

こういう絵巻物みたいな世界だと、この作品もすばらしいけど、この他に(監督は違うけど)“Flowers of Shanghai” (1998)とか“Millennium Mambo” (2001)とか、李屏賓すごい! があって、これらの作品ってなんでどれも世紀の変わり目に作られたのかしらね?

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