2.14.2021

[film] Vif-argent (2019)

2月5日、金曜日の晩、有料のYouTubeで見ました。
こっちのMy French Film Festival 2021ではリストには出ているのに”Not Available”となっていて、なんでだよって探してみたらふつうに売ってた。 英語題は、“Burning Ghost”。 2019 年のジャン・ヴィゴ賞を受賞している。

ふつうの都会とか土地のかんじからするとアフリカのようなとこの町の雑踏を映した後で、パリの街中を彷徨う若者のJuste (Thimotée Robart)がいる。彼は鼻の付け根に小さな傷があって、普通の人には姿が見えないようなので、幽霊なんだな、って思う。 そんな彼を拾ったのがAlpha (Djolof Mbengue)で、彼はJusteに服と仕事を与える。 彼には彼にしか見えない人 - おそらく死んだばかりの人 - がいて、彼を見ることができるのもそういう人 - 特定の人だけらしい。 誰が生きているのか死んでいるのか、誰が誰からどう見えるのか見えないのか、生と死がその境目であるらしいのだが、その違いは画面上や会話からだと明確にされない。 Justeは自分の名前以外の過去の記憶を持っていない。 ここまでで、これって別に今の自分らが見ている世界と大きな差がないようにみえる。

そんなJusteはカフェで寝ていた女性Agathe (Judith Chemla)と出会う。彼女は生きている方の人らしいのだが、Justeの姿を認めることができて、彼とそっくりの少年と10年前に旅先のトルコで出会って、みんなで雑魚寝したりしたんだけどまた会いたいな、とか言う。ふたりが散策してから公園で抱き合ってダンスするシーンがすばらしくよくて、そこから「信じられない」とか言いながらキスしてバイクの二人乗りをして、Agatheの部屋に行って夜と共にして、朝になってみると(朝の光の美しいこと)Justeの姿はAgatheからは見えなくなっていた…

なんとしてもAgatheと再会したいJusteは夜にも彼女の部屋を訪れて片方に片方が見えない状態で愛を交わしたり、事故で亡くなった彼女の祖母と会ったり、Alphaのところにいた死神のようなKramarz (Saadia Bentaïeb)にもう一度だけでいいから、ってお願いしたりするのだが …

JusteとAgatheはどちら側の岸辺にいて、どこでどんなふうに再会することができるのか、そこには満たすべき条件とか期限とかあったりするのか、この辺ももちろん答えなんてない(ないものはないんだ)のだが、ふたりが橋の上から遠くを歩いていくふたりを見ているところが泣きたくなるくらいよくて。 一緒にいるふたりが幸せなら生死なんてどうでもいいんだ、って。これもそりゃそうだわ、としか言いようがない。「目を閉じてごらん。一緒だから」

生者と死者のセックスって怪談では定番なのかもだけど、ずっと続いてほしいし抱きしめていたいけど続かない - やがて終わって果てて消えてしまうことの刹那を赤と青の光、昼と夜の光を効果的に使いながら官能的に表現していて素敵ったらない。 その人に、その生に届く届かないについても、橋や車や電車や公園を、事故現場とかをうまく使って絶望的に届かない距離感を演出していて、そのすべてがJusteのAgateと一緒にいたい、だからもう一度生きたい、という思いに縒り合わさっていく。 この辺のうまさ、強さって、比べるのは変だけど、こないだの”Soul”なんかよか断然。

ジャンルとしては幽霊おとぎ話なのかもしれないけど、本来は冷たいはずのゴーストがなんで燃えているのか。幽霊が恋に燃えたら果たしてどんなことが起こるのか、っていうのを現実界のお話として全く無理なく破綻なくそこらに展開している。幽霊ストーリーというよりはどまんなかのラブストーリーだと思った。 『ベルリン・天使の詩』(1987)で歴史に寄り添っていた天使たちがみんないなくなって、替わりに幽霊が、という世界として見ることもできるかも。

その世界に坊主頭 - うん、お坊さんだわ - の抗わないでも流されない透明な面構えのThimotée Robartは幽霊と世界のありように見事にはまっているし、ちょっと輪郭が脆くて光によってはこの世の人に見えない複雑な笑顔を見せるJudith Chemla、このふたりの青と赤の対照が素敵でいつまでも追っていたくなるの。

音楽は、最後の方のラフマニノフのピアノ協奏曲No.2が堂々とうねって、あとは公園でのKinksの”I Go to Sleep”のJeanne Gorinによるカバーとか、”I’m Lost Without You" - Marlon Williams とか。素敵だよねえ。


地震の被災地がとても心配。 まだ被害の規模が十分にわかっていない状態で書いているけど、もし被災した地域にケアが必要な人がいて、海外にいる家族が緊急で帰国しなければいけないようなケースについて、政府は入国のところを(検疫安全は最低限守るとしても)できる限り配慮してあげてほしい。

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