2.10.2021

[film] Énorme (2019)

2月2日の火曜日、MUBIで見ました。
My French Film FestivalでBFIでも見れるし日本でも見ることができる。英語題は”Enourmous”。邦題は『Énorme 奥様は妊娠中』。2020年のジャン・ヴィゴ賞を受賞している。 前日の”Baby Done”に続けての妊娠コメディ(?)。笑えるところもあるが、それだけじゃなくて、いろんな見方や議論ができる(と思う)映画。

国際的な評価を得ているクラシックのピアニストのClaire (Marina Foïs)はツアーで世界中をまわる(日本にも来るシーンがある)日々を送っていて、夫の  Frédéric (Jonathan Cohen)が付き人でマネージャーで、彼がツアーの手配は勿論、ホテルから飛行機からボディガードからメイクアップからバースピルまで、ピアノを弾く以外の彼女の生活全ての世話を付きっきりでしていて(Clairに対する質問も全て彼が答えたり)、彼女はそれで自分の音楽に集中できているようだし、結果ふたりは幸せそうに見える。

ある日、飛行機で移動中の機内で、CPRの資格があるFrédéricが緊急出産する場面に遭遇して、産まれてほかほかの赤子を抱きあげたら感動してぼーっとなり、あたしも子供がほしい!ってそればかり思うようになる。 でもClaireとは子供を作らないことで合意しているし、そうなる気配もなさそうだし、でもある日(自分の母親との会話のあとで)、彼女に毎日与えているビルを細工したら..  という悪魔の考えが浮かんでしまい、階下に暮らすスピリチュアル野郎の儀式を受け、彼女にはこっそり別の錠剤を飲ませて、所かまわず何度もやりまくり、夜中には自宅やホテルのトイレの水洗を都度止めて妊娠してるしてないをチェックして、それを確認した後はClaireが体調不良を訴えても医者は予約でいっぱいとかごまかして中絶できなくなる12週間待たせて…

もちろんこんなの本当にやったら犯罪なのだが、これはコメディ映画なので、その証拠に彼女のお腹はひと目でフェイクとわかるくらいにでっかく膨らんで彼女のあらゆる自由を奪うことになって、恨めしい目でFrédéricを睨むことしかできない。こんなふうにどこからかやってきて一定期間、彼女の全てを奪ったり妨害したりする妊娠という事態、それを企んだのはFrédéricなのだが、でもそうなる前のFrédéricの生活は(合意の上とは言え)すべてClaireの「活動」のために捧げられていたのではなかったっけ?

映画のなかで妊娠後の役割や権利を巡るどっちが悪いどっちのせいだの議論や喧嘩は(画面の上では)起こらないのだが、妊娠という(物理的には)女性の身体のみに起こる現象がいかに巨大で(= Énorme)アンバランスで非合理的な役割期待とその配合の上に無反省に乗っかったものなのかを露わにする。 先の”Baby Done”にあったような親になることへの不安や恐怖なんて俎上にもあがらない。ひとつだけ、これまでソロ公演ばかりやってきたClaireが次の挑戦として取り組もうとしていたラヴェルのピアノ協奏曲のコンサートが予定日の近くなのでできるかどうか、くらい。

あとは赤子を待ちきれないFrédéricが嬉々として妊活のワークショップにでたり、Claireに合わせてお腹をでっかくしたり、いろんな育児グッズを買ってきたりする滑稽さと、実際にお産が始まってからの絶望的に前に進まずに(時間の経過と共に担当の医師だけが回転していって)ふたり揃って死にそうになりながら共有していく時間のこととか。

これも前の日の”Baby Done”と同様、仕事を持った男女に突然立ちはだかる妊娠という出来事に懐疑と驚嘆の目でぶつかって(ぶつけられて)、女性はお腹が膨れたからといって出産を歓迎するとは思うなよ、って不機嫌になり、男性はその様子にひたすら右往左往する、というコメディで、とにかく安易に子供を持つことはすばらしい〜に直結していかない(むしろFrédéricの大騒ぎで醒める)のはよいかも。ラスト、Claireは産後でよれよれの状態のまま、ふざけんじゃねえぞおら、の目と表情でたった一人で演奏会場に向かい、ラヴェルの演奏会のステージに立つところなんてかっこいいったらない。

フェミニズムの観点からいろんなことを議論できそうな風通しのよさがありながらも、建てつけはあくまでもバディのコメディになっていて、凸凹なふたりが目の前に立ちはだかる難題にどう立ち向かっていくのか、がひたすらおかしい。おもしろがってよいことなのではないか。だめ?

こういうの(あと、生理をテーマにしたのとか)もっと作られるべきよね。

監督のSophie Letourneurさんの他の作品は、いまアメリカのMUBIで見れるので、もう少し見てみる。


NYでやっていてぎりぎりしていた4Kリストアされた王家衛の選集がBFIにもやってきた。とりあえず1本見て、そのすばらしさに悶えている。公開当時、なにを見て聞いていたのだろうか、って。 今月はCriterionにもいろいろ入ってきているのだが、時間がぜんぜんないわ。

 

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