2.04.2021

[film] The Cobweb (1955)

1月27日、水曜日の晩、Criterion Channelで見ました。1月末でいなくなるリストから。

MGMによるVincente Minnelli監督作で、原作はWilliam Gibson(サイバーパンクの人とは別ね)の1954年の同名小説。邦題は『蜘蛛の巣』。

単純にこの頃のテクニカラーの映画が好き、というのと、ミュージカル・コメディからこういうメロドラマまで幅広くいろんな作品 - やや重め - をリリースし続けていた40-50年代のVincente Minnelliは機会があればできるだけ見ておきたい、というのと。

冒頭、田舎の施設のような建物から若者Steven (John Kerr)が駆け出してきて(脱走してきたかのよう)、Karen (Gloria Grahame)の運転してきた車に拾われて、その車はStevenが抜け出してきた建物に戻っていく。

そこは環境療法を取り入れている精神病院で、Stevenはそこにずっといる患者のひとりで自殺傾向があって、Karenはそこの院長Dr. Stewart McIver (Richard Widmark)の妻で、個性的な病人たちが院内を歩き回っている中、経営する側もワンマンぽい理事長のDr. Douglas N. Devanal (Charles Boyer)とかいつもぴりぴりしている職員のVictoria (Lillian Gish)とか、いろんな人達がいてそれぞれに家族がいるし子供もいるし、いろんな入り組んだ問題がある – ふつうの職場や家族とおなじ。

で、いまは図書室のカーテンを新調するのにどうするのかを決めようとしていて、患者たちにアート指導をやっているMeg Rinehart (Lauren Bacall)はStevenの描いた絵がすばらしいので、これを元にすればというアイデアにStewartが同意して患者たちも盛りあがるのだが、そこになぜかお呼びでないはずのKarenが割り込んできて勝手に業者に発注しちゃったりしたので、ひと騒動持ちあがる。

そこには多忙で家のことを構っていられないStuartと、それがつまんないKarenと、カーテンの件でよいかんじになっているMegとStewartと、それを見て反応したVictoriaと、それを聞いて嫉妬に燃え始めるKarenと、そういうのから置き去りにされて権力を揮いたい理事長にKarenが寄っていったり、そういう内輪もめのぎすぎすでいいかげんうんざりしたStevenは再び院を飛び出して…

最後は病院に火が放たれて..  というようなことにも、Stevenとか患者の誰かが犠牲になることもないのだが、患者たちも医者たちも経営者たちも見えない蜘蛛の糸に絡めとられているかのようにずっと動けなくて(or その糸の上しか移動できなくて)、みんなそういう状態については苛立って強ばっていて、そりゃ患者が快癒していなくなったら病院いらなくなっちゃって、それはそれで困るもんねえ、みたいに停滞したありようが微細かつシリアスな壁画のように描かれていてすごい。

冒頭の字幕で"The trouble began."と出て、エンディングの字幕で"The trouble was over."と出るのだが、それでああよかったね、になる印象は全くないしすっきりしないし。 蜘蛛の巣の中心にいるのは/あるのは何なのか? って。  今だと簡単にディストピアと絡めた格子の向こうのサスペンスホラーになりそう。Steven SoderberghがiPhoneで撮った“Unsane“ (2018) みたいなやつ。

“Meet Me in St. Louis” (1944)なんかもそうだけど、Minnelliという作家は、無垢であること、素朴な生への信頼が大人たちの事情によって残酷に踏みにじられてしまう様をスペクタクルのように描くことができる人だと思っていて、この作品でもStevenと患者仲間のSue (Susan Strasberg)がふたりで映画に行ってデートして、いろんなことを語り合うシーンなんて夢のように素敵なのにな..   なんであんな仕打ちを平気でするんだろうか? - そういうことを平気でするのが大人であり社会というものなのだよ、って。  

あとは役者それぞれのすばらしさよ。Richard WidmarkとLauren Bacallの静かにうつむいているだけでサスペンスが走ってしまうふたりの姿とか、まるで今の”Karen”みたいなKarenになっているGloria Grahameとか、フランスとしか言いようがない不敵な重厚さをもたらすCharles Boyerとか、ずうっと患者としか言いようがないOscar Levantとか、アメリカのおばちゃんとしか言いようがないLillian Gishとか。

最初にアナウンスされていたというキャストRobert Taylor (→ Richard Widmark), Lana Turner (→Lauren Bacall),  Grace Kelly (→ Gloria Grahame), James Dean (→ John Kerr) もすごいなー。とっても見たい。


昨日のニュースだけど、Captain Sir Tom Mooreが亡くなった。昨年の最初のロックダウンの時、NHSへの募金のために話題になっていた頃は、毎朝のようにBBCで今日も歩いています、って中継があったので、いなくなっちゃったのが寂しい。ただお金を集めよう、って黙って歩いていっただけだった。そしていなくなってしまった。かっこいいな。  ご冥福をお祈りします。

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