5.26.2020

[film] Mistérios de Lisboa (2010)

5月23, 24, 25の3連休はでっかいやつをやっつけなければ、ということでそのひとつがこれ。

この作品は272分の映画版が2011年にリリースされて、自分もBAMで見ているのだが、これの元は55分 X 6回のTVシリーズで、今回そのバージョンが米国で初めてFilm at Lincoln CenterのVirtual Cinemaで公開になった。こんなの見るしかないので、EP1と2を土曜日の晩に、EP3と4を日曜日の昼に、EP5と6を月曜日の昼に見た。一気に見る、というのもありかもだけど、緻密な美術品を端からじーっと眺めてじんわり、っていう作品なので時間をおいて咀嚼しながら見ていった方がよいかも。

映画版を見た時は頭のまわりを小鳥がまわってひたすらその物量に圧倒されたかんじだったが今回は違って、でも改めてすごい作品だと思った。このタイミングでもう一度映画版を見直したくなる。

原作はポルトガルのロマン派作家Camilo Castelo Brancoの“Os Mistérios de Lisboa” (1854) - Manoel de Oliveiraの “Amor de Perdição” (1979)の原作『破滅の恋: ある家族の記憶』は翻訳されたけど、できればこれも読みたい -  で、監督はRaúl Ruizで、これが彼の遺作となった。英語題は“Mysteries of Lisbon”、邦題は『ミステリーズ 運命のリスボン』。ポルトガル – フランス合作映画。

TV版、各エピソードのタイトルは以下のようになっている。

Episode 1: “The Boy With No Name”
Episode 2: “The Count of Santa Barbara”
Episode 3: "The Enigma of Father Dinis"
Episode 4: "The Crimes of Anacleta dos Remédios"
Episode 5: "Blanche de Monfort"
Episode 6: "The Vengeance of the Duchess of Cliton"

EP1ではキリスト教の寄宿学校でJoão (João Arrais)とだけ呼ばれて、裏で私生児って蔑まれている少年が喧嘩した後、ベッドに横たわり動けなくなっている時に幻影なのかなんなのか母のような女性を見て、Father Dinis (Adriano Luz)が彼の傍らで、彼の出生の秘密と母の禁じられた恋を語って、彼が実はPedro da Silva、であることがわかる。

冒頭でイギリス人の婦人から、この子はちっとも動かないのね、って言われてスケッチされたPedroのドローイングと彼の母が部屋に残していった人形劇の舞台装置 - 場面が切り替わる際、紙人形が現れて動いたりする – を起点に、名前も色もついていない人の像とその背後の糸が選り分けられ束ねられてぎこちなく動き出す。

EP2以降のタイトルには主要登場人物の名前が入っている。

EP2では、Pedroの母Ângela de Lima (Maria João Bastos)がお金と家柄のためにThe Count of Santa Barbaraと無理やり結婚させられることになることと、その裏でPedro da Silva(Pedroの父)と密会を重ねてPedroとなる男の子を身籠り、その子を救うためにFather Denisが立ち回りやくざのKnife Eaterと裏取引をして生まれてすぐ殺される運命にあったPedroを救出したこと、Pedroの父は怪我を負ってFather Denisの腕のなかで息絶えたこと、やがてThe Count of Santa Barbaraが亡くなったのでその遺産も継いですべて安泰、と思ったらママは修道院に入る、っていったのでPedroはショックで..

EP3では、PedroやÂngelaの保護者としてどこからともなく現れて暗躍するFather Denisの出生の秘密とかつて取引をしたKnife Eaterが今や謎の富豪 - Alberto de Magalhaes (Ricardo Pereira)として貴族社会に入りこんでいることなど、いろんな因果が明らかにされる。

EP4では、Ângela de Limaが入った修道院で再会した親友の修道女とFather Denisから彼女の母であるAnacleta dos Remédiosの犯した罪と償い、妹とFather Denisの悲恋の話を聞く。

EP5では、Alberto de MagalhãesのところにフランスからElisa de Montfort (Clotilde Hesme)が現れて彼への復讐に燃えているようで、そこでまたFather Denisが現れて彼が若い頃に滞在していたフランスで巻き込まれたElisaの母Blanche de Montfort (Léa Seydoux)の恋 - 相手はLacroze (Melvil Poupaud) - とその悲劇的な結末を語る。

EP6では、詩人として成長したPedro da Silva (Afonso Pimentel)が現れてEliseと恋に落ちて、Alberto de Magalhaesとの決闘をすることになり、Eliseの業の深さを思い知り、更に母Ângelaの死を知ってすべてが嫌になってタンジールに渡り、最後はブラジルに流れ着いて、これまでのことを回想していくの。

こんなふうに、ある人の名前とか面影を起点として貴族社会の表面を漂う人物の背後に広がる無数の糸や闇や歪みを表に出す。大抵の恋は叶わなかったり引き離されたり破れたり壊されたり葬られたり、大抵の人は死んだり殺されたり修道院に入ったり恨みを抱えたままだったり後悔に苛まれていたり、そうやってその最期を知る人(ほぼFather Denis)がその顛末を、彼の胸元でこと切れた最後の吐息と共に表に出す。そうやって見いだされる時間といろんな人たちの顔、それらを貫いてある色恋のあれこれ。あの人形劇を動かして操っていたのは誰だったのか?  神でも悪魔でもなく、それはミステリーと呼ぶしかない不思議さと生々しさでそこにあった。みんな亡霊、なのかもしれないけど、彼らは間違いなく生きて恋をしていたのだと。

この原作の60年後くらいにコンブレーを舞台に膨大なオムニバスミステリー/メロドラマを書いたのがプルーストで、Raúl Ruizはこちらも映画化しているの - “Le Temps retrouvé” (1999) - 見てない。見たい。

とにかく美術が美しくて、リアリズムに徹しているようで、でもパーティのシーンで見つめ合うふたりが浮かびあがってすーって滑っていくとことか、鏡の奥にぼうっと髑髏が浮かびあがったりとか、細かいところで目を離せない。

最初に映画版を見たときはまだリスボンは行っていなかった。リスボンに何度か行った後で見ると違って見えるかしら? と期待したけど、そこはあまり関係なかったかも。


6月15日から生活必需品でない(non-essential)ものを売るお店をオープンしてよいことになったようなのだが、ルールがなんだかめんどくさそう。本屋のWaterstonesも開くっていうけど、客がいちど手に取った本は、棚に戻す前に72時間検疫の時間をもうける、って…
レコード棚でぱたぱたやったらその箱ぜんぶだめになっちゃうの? 72時間? ... 手に取ったら迷わず買えってこと?   

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