5.09.2020

[film] The Assistant (2019)

1日、金曜日の晩、Curzon Home Cinemaで見ました。 いまとにかく必見の一本。

Jane (Julia Garner)がまだ暗い朝にアストリアの自宅を車(運転手はいる)で出て、橋を渡ってマンハッタンに入り、誰もいないオフィスに着いて、電気を点けて、掃除をしたりコピー機を確かめたりコーヒーいれたり、そのうちオフィスに人がぽつぽつやってきて、どこにでもありそうな会社の一日が始まる。

この会社はTV・映画の制作会社(場所はトライベッカ辺り?)で、Janeはそこの、業界の大人物(最後まで顔をださない)らしい男の秘書室のアシスタントで、そこには上に男性ふたりがいて、彼女の仕事は会議手配に出張手配、やってくる訪問客の案内その他雑用全般で、カメラはJaneに張りついて一番早くオフィスに来て一番遅くにオフィスを出る彼女の仕事(の丸一日)を追っていく。 それだけ。

彼女は仕事の用件以外の声を出さず私用のお喋りもせず、オフィスにある機械(コピー、スキャナー、コーヒーメイカー)と同じようにすべてを機械のようにこなし、同僚(男)の妻からの電話に出てその文句も黙って聞けば、会議の後に残されたデニッシュを片付けたり(残りを頬張っているのを見られる)、重役室に落ちていたイヤリングを拾ったりソファのシミを消したり、使途不明の領収書を処理したり、偉い人からの鬼のような文句も黙って聞いて、その後に謝罪のメール - “I won’t let you down again”を入れたり。

いきなり西の田舎から若い女性が現れて秘書の面接に来るように言われた、というので、突然その面接場所(ホテル - “The Mark”だって。なんでわざわざ?)に彼女を連れて行くことになったり、そのせいでその後に予定した会議がおじゃんになって苦情くらって、いくらなんでもこれは、と思ったJaneは意を決してHR(人事部)のところに行って話をしようと思う。

面談に応じてくれたHRの偉い人(Matthew Macfadyen)に一通り今日の出来事やイヤリングが落ちていたこと等を話すと、慇懃に君は優秀な大学を優秀な成績で卒業し、競争を勝ち取って今の仕事を得た、ここに来て何ヶ月だっけ? 2ヶ月? 今は本当に大変な時期だと思うよ、でも君のポジションに応募をかけると数百人が殺到する、それくらい難関なんだ?  で、君はそれでどうしてほしい? 会社になにができるかを言ってほしいんだ、とかいうのでこりゃだめだ..  って泣きながらそこを後にする。

彼女の仕事そのもの(手を動かすところ)に難しいところはない。会社勤めをしている人なら誰もがそういう仕事をしているアシスタント、事務担当がいることを、その仕事の内容も知っている、だから彼女の直面していること、その面倒さ辛さも容易に想像がつくだろう。で、その裏側で、こんなことあんなことが行われていることを知ったとき、なにができるだろうか? って。

カメラも音楽も必要最小限の動きで彼女の(無)表情と場面場面の小さな嘆息や絶望をクローズアップで追い、その緊張感ときたらとてつもない。いつ彼女がナイフやハサミを手にしてそれをどこかだれか(or 自分)に突きたてないか、ドアを蹴破って突撃しないか、はらはら見つめるしかない。

ここで描かれている虐待、セクハラ、パワハラから誰もがHarvey Weinsteinのケースを(電話の向こうの怒鳴り声からみんなあのじじいの顔を)思い浮かべるだろうし、制作者(監督はこれまでドキュメンタリーを撮ってきた女性 - Kitty Greenさん)もそこを突いているのだと思う。 ここのJaneの置かれた牢獄のような職場環境からどうやってその屋根と格子をぶち破って腐れ外道じじいを外に向かって告発することができるのか?  #MeTooがいかに偉大でものすごいことを成し遂げたムーブメントだったか、改めて思い知るの。

Janeがここで経験していることについて、こんなの虐待と呼べないとか、みんな君と同じように大変な思いをしているんだよとか、辛かったら努力して上にいけばとか、嫌なら辞めて別のキャリアをとか、あるいは、仕事をまわすためにはある程度の強制や指導も..とか、自分も上司では散々苦労して.. とかのコメントはなんの解決にもなっていないし、こういうはぐらかしは世界的にはもう無効なんだよ、って(浸透するにはまだまだかなあ、にっぽんは特に)。

時間を遡ることが許されるなら、告発して葬ってやりたいのが軽く10人くらいいる。できないだろうか? とか。
みんなでそういうのやったらすこしはにっぽんの「ザ・会社」のしょうもない空気、少しはきれいになると思うわ。
あと、いまのWFH (Work From Home)は、ハラスメント撲滅、ていう観点では貢献しているのでよいのではないか。

会社のHRの人たちと偉い人たちは全員これを見てちゃんとディスカッションして自分で議事録書いて残してほしい。
10年後、この映画を見た若い人たちが、なんなのこれ?わけわかんないわ って不思議に思うくらいに変わってほしい。

こんなふうについ熱くなって書いてしまうのだが、映画自体はクールで釘付けですごいからー。


昨日のVE-Day、みんなでお祝いしたいけど、いまはコロナで難しい、でも会いたいよう - ”We will meet again”  ってとても暖かく切ないかんじのものになっていた気がする。 それはそれでよいのだが、これが「国威」みたいのに結ばれて語られだしたりしたら怖い、って少しだけ。 

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