5.23.2020

[film] The Long Voyage Home (1940)

15日、金曜日の晩、Criterion Channelで見ました。監督John Ford、撮影Gregg Tolandによる問答無用のクラシック。邦題は『果てなき船路』。

原作はEugene O'Neillによる貨物船Glencairnの航海と船員たちのドラマを描いた一幕もの4本 - “The Moon of the Caribbees” (1918) -  “In the Zone” (1917) - “Bound East for Cardiff” (1914) -  “The Long Voyage Home” (1917) をひとつに束ねたもの、なのでエピソードとしては4つに分かれている(あと第一次大戦期の話から第二次大戦期の話に替わっている)のだが、それがどうした、というくらい同じ船の上のしょっぱ臭い男たちのお話としてひとつにまとまっていておもしろい。

親分というか牢名主みたいなDriscoll (Thomas Mitchell)がナシをつけてきたぜって地元の女たちがいっぱい乗船してきて飲んで歌って踊ってキスして喧嘩してのどんちゃん騒ぎをする導入部で癖のある船乗りたちをざっと紹介して、そこから急落下して嵐の中の作業で大怪我して死んでしまうYank (Ward Bond)の話とか、下船禁止のなかこっそり降りようとしたSmitty (Ian Hunter)が捕まって、おまえドイツのスパイだろ、ってみんなで疑って取り押さえて、彼がひたすら隠そうとする手紙を無理やり読みあげたら、家族との泣けるやりとりだったので全員が気まずくなって、そのあとにようやく陸が近くなったところでドイツ機の襲撃を受けてSmittyは亡くなってしまって、なんとか下船したところでまだこれからのOlsen (John Wayne)を故郷のスウェーデンに帰してやらなきゃ、って、でもみんなでじゃあお別れの一杯を、いやほんと一杯だけだから、ってやっているうちにぐでぐでになってOlsenも潰されて悪徳貨物船に連れ去られそうになったところでみんな得意の大喧嘩で蹴散らして、でもDriscollだけタイミング悪くて。

最初のふたつは古典絵画のような陰影に溢れていて、みっつめは浪花節の叙情と哀切たっぷりで、最後のは落語のどたばたした楽しさがあって、でも最後にDriscollのバカやろ …  ってみんなでしょんぼり呟くの。

陸に居場所がないのでやってきたやつら、船の上にしか居場所のないやつらのいろんな顔とか業が揺れて傾いてやかましい世界の上に長く伸びた影を作って、いつまでも残って消えない。こないだ見た”Wooden Crosses” (1932)の十字架みたいに。


Anna Christie (1930)

16日、土曜日の昼間、Criterion Channelで見ました。
前日の”The Long Voyage Home”からの流れだと、これも原作はEugene O'Neill、彼の四幕ものの同名戯曲で、1922年のピュリッツァー賞を受賞している。もういっこ、前々日に見た”Dinner at Eight” (1933) からの流れだと、Frances Marionが脚色をしていて、忘れがたい脇役としてMarie Dresslerも出てくるの。

波止場の貧乏長屋でご機嫌なおばさんMarthy (Marie Dressler)のところにこれもご機嫌なおんぼろ友達Chris (George F. Marion)が訪ねてきて、飲み屋で飲まねえかって。 Chrisの話を聞くと15年前に別れたきりになっていた娘のAnna Christie (Greta Garbo)が今日ミネソタからやってくるという。

飲み屋にそのままやってきたAnnaはなにやらやつれて引き摺っているふうなのだが、行き場もないのでChrisの船の上で父と暮らし始めて、そこで遭難したところを救助した船乗りのMatt (Charles Bickford)と仲良くなり、明るく気前のよいMattとコニーアイランドでデートしたり、Annaはセーターを編んであげたり、もうこれはあれしかない、ってMattはAnnにプロポーズするのだが、Annaはごめんなさい結婚できない...  って。

”The Long Voyage Home”が船の上でしか生きられない男共のお話だとすれば、”Anna Christie” はそんな男共のロマンだかなんだかに付き合わされて勝手に捨てられた女性の、それでも船の上の男に惹かれてしまう自分や周囲に対するもう何もかも大っ嫌いだ!くそったれー になっていて、これって極めて現代的なテーマだと思うし、いろいろ考えさせられる。

でもMattみたいに上げ下げ激しい男は結婚した途端にDV野郎に変貌して先々の港で女作るし、ひょっとしたらもうどっかにいるに違いないし、やめたほうがいいよ、って。 でも舅が一緒についてくるから大丈夫かな?

これがトーキー初めてとなるGreta Garboはいつものように申し分ないすばらしさ(本作ではオスカーにノミネートされている)なのだが、サイレントの頃から彼女を見ていた人たちは彼女の声がローキーなのに驚いたのだという。スクリーンで喋っている彼女をふつうに見てきたのでそういうことはなかったのだが、驚いてみたかったな。


昨日から英国の上空を冗談みたいな渦渦の雲がぐるぐるしていて(台風ではないらしい)、雲の形がめまぐるしく変わっていって楽しいのだが、天気もめちゃくちゃでお天気なのに土砂降り、ついでに雹まできて風が朝から晩までぼうぼうに吹いている。 ターナーと嵐が丘の国だねえ、って思う。

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