5.10.2020

[film] Les croix de bois (1932)

5月に入って、どうしようかうじうじ悩んでいたやつを実行した。映画館が再開される目処がぜんぜんたちそうにないのでVPNを張っちまうか、と。 英国から米国のCriterion ChannelとかTCMとかFilm Center of Lincoln Centerで流している映画は見ることができないのだが、この仕掛けを仕込めば見れる。もちろん別途お金がかかって、長期で契約すれば安い。けどそのうち飽きる可能性があるからとりあえず一ヶ月だけ。

というわけで2日、土曜日の昼、Criterion Channelで見ました。
Wes Andersonがおもしろかった、と言っていたRaymond Bernardの作品。
英語題は“Wooden Crosses”。第一次大戦のフランス - ドイツ間の戦争。とにかく怖い。

原野一面にずらりと整列した兵隊の像がそのままきれいに十字架の列に置き換わるのが冒頭。

1914年、学校を出たばかりのGilbert (Pierre Blanchar)が第一次大戦に志願して小隊に加わってプロバンスの方の戦闘に参加する。小隊にはいろんな職業のそれぞれの事情を抱えた人たちがいてみんな暖かく迎えてくれて、でも向かった先の戦場は一寸先は闇のとてつもない地獄だった。

夜のシーンが恐ろしくて、当たり前だけど真っ暗でなにも見えないところに向こうからびゅんびゅん飛んでくる。なにがなんだかわからない。映画であれば奥行きを見せるために奥の方もある程度照らしたりしそうなものなのに、ここでそれはなくて、表情も敵味方すらもよくわからない、ぺったりした岩の固まりの闇の向こうから突然銃撃されて、隣のだれかがばったり倒れる。
揺れて流れていく照明弾が遺体のシルエットを照らし、その影が亡霊のように立ち上がってくるように見える。ホラー。

この映画の戦場シーンがあまりに凄まじかったので、アメリカではこういうのをやれ、ってHoward Hawksの“The Road to Glory” (1936)ではこの映画の戦場シーンから使われているのだそう。

兵士には家族がいてそれぞれ事情があって(妻を呪いながら死んでいったり)、Gilbertにも田舎には彼女がいて、手紙を握りしめつつ彼女とのダンスを夢見たり、その反対側で夜にも昼にも何度かの衝突があり、そのたびに何人かの仲間を失い、ようやく帰還が許されてみんなとお別れの宴をしていたその最中に攻撃が激しくなったので帰還はキャンセル、支度をしろと言われる。

戦局に翻弄されるひとりひとりの運命と死、でもその先はぺらぺらした木の十字架いっぽんで、どこのに誰のが立てられたのかもわからず、それが数千数万と平原に並べられる、それが戦闘の、戦争の結果(戦争がもたらすのは平和、って本当に言えるのか?)。

これ、第一次大戦を描いた映画としてはG.W. Pabstの”Westfront 1918” (1930)、”All Quiet on the Western Front” (1930)と並ぶ傑作と言われていて、このふたつがドイツ軍目線なのに対し、これはフランス軍目線、という違いがあるらしいが、どっちにしてもおっかない。2018年にBFIで見た”Westfront 1918”も逃げ出したくなるくらい恐ろしいやつだった。 こないだの”1917” ? これらに比べたらぜーんぜん。

どうでもよいけど、小学校の体育の時間に「きをつけ!」ってやらされていたのって、”Attention!”のことだったのか、って。あれ、まだやってるの?


Anne-Marie (1936)

これは3日、日曜日の昼間に同じCriterion Channelで見ました。やはりRaymond Bernardの作品。邦題は『夜の空を行く』。
サン=テグジュペリがスクリプトを書いている(どこまで書いているのかしら?)女性飛行機乗りのお話。

ピアノを弾いてバラを育てているお調子者の発明家 (Pierre Richard-Willm)がいて、彼が売り込みに行った飛行場で機体部品エンジニアのAnne-Marie (Annabella) と出会って一目惚れする。試験飛行でパイロットから機器の不調を指摘されたAnne-Marieは、そういうのって実際に飛んでみないとわからないわよね、あたしもパイロットになれるかしら? なりたいの! って言うと、そこのパイロット5人(仲間うちで本名ではなく”Boxer”とか”Thinker”とか”Peasant”とか”Detective”とか”Lover”ってあだ名で呼んでいる)は承知して、彼女を仲間に入れてパイロットとして育てていくの(ここでセクシズムとかいろいろあるけど)。 

やがてパイロットのうち一人が彼女を好きになってしまうのだが、匿名の手紙のやりとりでいろんな矢印の行き違いがあって、悲しい事故もあって、最後、Anne-Marieの卒業と記録をかけた勝負の飛行に悪天候がぶつかって絶対絶命になるの。

思わぬ方に二転三転する恋のトライアングルにどこに行っちゃうかわからない飛行のスリル 〜 パニックが重なって、ラストの決着のつけ方ときたら手に汗握るすばらしさ。”Die Hard 2” (1990)なんかよりも画期的。あとでめちゃくちゃ怒られたかもだけど。(ここ、Wes Anderson的、と言えなくもないかも)

これ、ぜったいにおもしろいよ。 ミュージカルにできちゃうと思う。


数日前に米国を襲っていた(と思う)北風がやってきていきなり寒くなった。こういうとき、地球はまるい、って思う。

TVで久々に”Seabiscuit” (2003)の後ろ半分をみて泣きそうだった。これ、大好きなのよね。

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