2.17.2023

[film] Hytti nro 6 (2021)

2月12日、日曜日の午後、シネマカリテで見ました。
”Babylon”で飛んできた飛沫だの糞だのを振り払おう、と。 英語題は”Compartment No. 6”、邦題は『コンパートメントNo.6』。

原作はフィンランド人作家/アーティストのRosa Liksomの同名小説、監督は1作目の『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(2016)がとってもよかった記憶があるJuho Kuosmanen、フィンランド-ロシア-エストニア-ドイツの共同制作。2021年のカンヌでグランプリを受賞している。

冒頭、Roxy Musicの”Love is the Drug”ががんがん流れてくれてご機嫌。

90年代の初め、フィンランドからモスクワに留学している考古学専攻のLaura (Seidi Haarla)は専攻の教授のIrina (Dirana Drukarova)と関係を持っていて、ふたりで北方のムルマンスクにペトログリフ(Kanozero Petroglyphs - 紀元前2~3千年前頃の岩面彫刻)を見に行く旅を計画していたのに、彼女は突然行けなくなってしまい、送別パーティの後、一人しょんぼり旅にでる。

モスクワからの寝台列車(二等)に乗りこんでそこの6号コンパートメント(この数字が特に意味を持っているわけではなかったよう)に入ってみると、坊主頭でせかせかタバコを吸って酒の瓶を出して、目つきから何から見ただけでやばそうなロシア人労働者のLjoha (Yuriy Borisov)がいて、ムルマンスクで売春でもするのか、とか酷いことを言うので、これは殺し合いのホラーになる予感を帯びながら、女性の車掌のところに行って寝台を替えてほしい、って頼んで、別の客車も探してみるのだが空いていないので、仕方なく同じコンパートメントで向かいあって旅をしていくことになる。

Ljohaの言葉遣いがあれなので、Lauraは向かいの上の寝台にあがって恐々適当に相手をしていると敵はそのうちぐうぐう寝込んで動かなくなり、長めの停車時間のときに外に出て空気と光が変わるとふたりの様子も変わってLauraも言い返したり、よいかんじになってきたと思ったらフィンランド人のギターを抱えた若者が乗ってきて、Lauraとフィンランド語で会話を始めるとLjohaが拗ねて不機嫌になったり、LauraはIrinaと話をしたくて電話しても彼女がなんとなく避けようとしているようだとか、いろんなことを通過し、互いに「なんだこいつ?」を残しながらも少しづつ解けていく。

で、あとほんの少し雪が解ければ、というところで目的地に着いて(後ろ髪のようななにかが引っかかりつつも)気持ちよく別れてLjohaは勤め先の炭鉱に、Lauraは予約していたホテルに入ってペトログリフへのツアーを申し込もうとすると冬は危険なのでやっていない、と冷たく返され(そんなことも確認していなかった、と)、初めは仕方なく他のツアーに参加していたのだがやっぱり諦めきれず、聞いていたLjohaの勤め先を訪ねてメモを託すと..

ペトログリフがある場所の地の果て感がたまんなくて(行ってみたい!)、それに加えて地面に張りつくLauraを待っている間に雪原をぶらぶらしているLjohaの姿とかがよくてー。このふたり、なにやってるんだろう? って彼ら自身も思っているようなあったかいおかしみが。

既にいろんな人が言及している”Before” trilogyの、あからさまに仕組まれた魔法とはちょっと違う、詰め込まれた列車のなか、雪と氷の外界に挟まれて行き場を失った - あそこしか行くところがなかった - ふたりの、当人たちにも想像もしていなかったような溶解のお話。 甘い、というよりは温まり始めたカイロのように冷たいけどあったかい温度感。

主演のふたり - Seidi Haarla、Yuriy Borisovがとてもよいの。ふたりとも基本は笑わない仏頂面で刻々と変わっていく温度の変化に自分で驚き、寒さに震えながらなんとかそこについて順応しようとして、35mmのフィルム撮影だったというカメラはその微細な変化を捕まえている。(フィルムの現像がロシア国内ではできず大変だったみたいだけど)

“Olli Maki”の時にも思ったことだが、(よい意味で)少女漫画みたいだなあ、って思った。

2019年の初頭にモスクワからサンクトペテルブルクは列車で行った - 時間がなかったので夜行ではなく特急みたいなやつ – で、車窓の外の寒々しい暗さはとてもよくわかるし、Ljohaみたいにウォッカを水みたいにくいくい呑むロシアの人もいっぱい見たし会ったし、なんだかとても懐かしい。そしてかなしい。 プーチンがどれだけ酷いやつだとしても(やつだけど)、ロシアのこんな人たちとか土地まで嫌いになれるわけないじゃんか。また会いたいよう、行きたいよう、そのうちまたね、ということを改めて。

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