2.06.2023

[film] Ennio (2021)

1月28日、土曜日の夕方、ル・シネマで見ました。
邦題は『モリコーネ 映画が恋した音楽家』。タイトルの横には”The Maestro”と付いている国が多い。

上映時間156分と聞いて、えー(長い..)、だったが見ていくとこれはしょうがない、これでも短く纏められたほうかも、になる。 監督は自作の映画音楽も書いて貰っているGiuseppe Tornatore。

Ennio Morricone(1928-2020)の生前行われたインタビューと膨大な量の映画のアーカイブ切り抜き、その映画の関係者等からのコメントを中心に彼の業績を振り返っていくドキュメンタリー。彼が亡くなった7月6日はロックダウン中のロンドンにいて、TVのニュースからは”The Good, the Bad and the Ugly” (1966)のあの音が一日中流れ続けてあたまがおかしくなりそうだったが、それだけの重鎮であった、というのはここに出てくる人々の顔と名前をみればわかる。

冒頭はマエストロの一日の始まり - 起きてストレッチをして書斎(すてき)に入って音楽を-音符を記しながら、彼の幼少期からの記録の上にマエストロの喋りがいつの間にか被さっていくような構成。 トランぺッター奏者だった父親にならってトランペットを始めて、奏者としてはそこそこだったものの音楽大学でGoffredo Petrassiに師事して作曲を学び始め、アカデミックなところに身を浸しながらもJazzバンドで吹いたりRCAでアレンジャーのバイトをするようになり、そこから劇場やTVの伴奏曲を書いたり、Paul AnkaやMinaといったポピュラー音楽の仕事で自分ができることの可能性や面白さに目覚めたりして、結果として学究からは遠ざかっていった、と。

そして映画音楽 – 特にSergio Leoneとの出会いがでっかく、以降は個々の映画のどの場面で彼のどんな音楽がどんなふうに使われたのか、の実例紹介コーナーになっていくのだが、この辺りから、見たことある映画の場合はあったあった、ここだよねえー、になるし、見たことない映画の場合はへえーなにこれかっこいいー(見たいなあー)、になるし、たいへんに頭のなかでの盛りあがりなどがやかましく、全体としては(自分が)見ていない映画の方が多すぎてお話にならない - 基礎からやり直し! になってしまう。

識者からのコメントの大半は、映画のこの場面(こんなに大事で重要で肝心な場面)にこんなメロディ、リズム、楽器、打音をぶつけるのか、という驚きが訴えられ、それが画面上で進行するドラマにどんな効果や鳥肌や背筋逆なでを加えるのかを少し冷静になって語り、更にそこから一歩踏みだしてそれが音楽としてもいかに革新的でユニークなものであったか、を讃える、そういうスタイルのものになっていて、コメントをする人も発注者である映画監督だけでなく、映画音楽作家 - Hans Zimmer, Quincy Jones, John Williamsから、音楽家の方からは Bruce Springsteen, Pat Metheny, James Hetfield などなど(大風呂敷系)。あとMike Pattonはコアな映画好きなのでわかるけど、いきなり出てきたPaul Simononはなんで?…

そして、ここまですごいこと - 順番に見ていくと驚異としか言いようがない - をやってのけながら米アカデミー賞からは(晩年を除けば)総無視、といってよい扱いを延々受け続けたというところは印象に残った。やはりヨーロッパからの感性と前衛が(たとえアメリカ映画に寄与したものだったとしても)アメリカには受け容れ難かった、ということなのか、亡くなられた時のヨーロッパでの扱いのぶ厚さを見てもああー、って思った。けど米アカデミーって今年のノミネーションを見ても相変わらずしょうもないし、そういう機関なんじゃないのか。

映画の中で、もう少し聞きたいかも、と思ったのはEnnio Morricone自身の映画観、というか彼が音楽をつける時に映画のどこを見たりどこに触れたりしようとしているのか - ストーリーなのか、テーマなのか、カメラの動きなのか、監督からの注文なのか – といったあたり。 特に決めずに勢いで書いてしまうような凄みはたしかにあったかも。映画音楽って - 映画もそうだけど - 映画以上にひとつの世界を作りあげようという - オーケストレートするかんじってある気がして、なのでその観点から彼がどこに到達したらその音楽はできあがったと言えるのか、とかその辺。 マエストロは決して語らないのだろうけどー。

あと、911の映像をあんなに長く流す必要あったのかしら。あれは劇映画じゃないよ。(まだ正視できない)。

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