8.19.2022

[film] Tobacco Road (1941)

8月7日、日曜日の昼、シネマヴェーラのジョン・フォード特集で見ました。
日曜日の昼に見るのにちょうどよいかんじのどたばた田舎コメディ。

Erskine Caldwellの同名小説 (1932)をJack Kirklandがブロードウェイの演劇に翻案して(1933)ヒットした作品の映画化。舞台版とは随分違うものになっているらしい。

それにしてもジョン・フォードって1940年に『怒りの葡萄』を撮って、同じ年に『果てなき航路』を撮って、この作品を撮って、これの後に『わが谷は緑なりき』を撮っている。とんでもなくないか?(どこを切ってもすごいのだが)

世界恐慌の頃、ジョージア州で綿花農家をやってきたLester家がいて、でも主人のJeeter (Charley Grapewin)を始めとして、仕事もなくて路上でごろごろしている。(ちなみに『怒りの葡萄』の初版は1939年、あれはほぼ同じ時代のオクラホマ州のお話し。映画『怒りの葡萄』のキャストとは5人が被っている)

他の家族は妻のAda (Elizabeth Patterson)との間に子供はぜんぶで17~18人くらいいた(絶句)らしいがこの時点で残っているのは息子のDude (William Tracy)と娘のEllie May (Gene Tierney)くらい。あとはどうなったか知らん、って。みんなうだうだなんもしてなくて怠け癖があって盗み癖があって人のものは自分のもので、なんでも先延ばしの生産性ゼロでも、やっぱり自分からはなんもしようとしないし、できるもんならやってみろ、くらいのかんじで路上に寝ている。

でも銀行からもうこの土地は接収するから/文句言われてもどうすることもできませんから、って突然言われてどうしよう、ってなり、かわいそうに思ったTim Harmon (Dana Andrews)が毎月$100で土地を借りられるようにしてくれるかも、ということで舞いあがって地の果てに向かって走り去っていくのと、Dudeが生命保険料$800を受けとった近所の未亡人Bessie Rice (Marjorie Rambeau)と結婚してでっかい車を買って歌いながら走り回るのと、Ellie Mayも誰かと結婚させたらお金が入るんじゃないか、とか、そういう狂騒がメイン。

同じ悲惨にどん詰まった貧農一家の物語のはずなのに、『怒りの葡萄』の土地を追われてどこまでも果てなく引き摺られていく悲壮感や無常感はまったくなくて、「なんとかしないと」というよりは「なんとかなるやろ」って歌を歌ったりカブを齧ったりしながらやりたい放題やっていく。ノリとして、車をぼこぼこにしていくところは「全員集合」のあれだし、だれも突っ込まないまま転がっていくのは「天才バカボン」とか”Adams Family”だったりする。たぶん教育上はたいへんよろしくないかんじ。

でも結局はどうすることもできずに救貧院に入るところはちょっと泣けたり、でも家族 - Lester家のお話しというより”Tobacco Road”っていう家のまえにのびている道路の、その上をすちゃらかで走り去っていく車とかのお話し、でよいのかも。

こういうの - 逆境を、逆境とも屁とも思わない強い家族のお話として描いて、それがブロードウェイで何度も上演されていく、ってやはりすごいな、って。「強い」と言っても家族の絆とかすばらしさなんて微塵もなく、ただある土地の上に家族があって、子たちは生まれた端から散っていって家の中にいたり外に転がっていたり適当にいるだけ、程度で、そのありようって『捜索者』(1956) で示されたような家の外に吹いている厳しさとか、『怒りの葡萄』のように家がなくて車の上に乗っている乗っていないの過酷さとか、そういうのとは違っていて、ただ違って、こんなふうにある、っていうそれだけのこと。こういうのもあるのだ、と。

あと例えばここに、この世界に「悪」とか「正義」とかってありうるのだろうか、って。『怒りの葡萄』には間違いなくあったと思うのだが、たぶんここにはなくて、この - 少なくとも登場人物たちにとって - 「悪」の存在しない世界、というのはどういうものなのか、っていうのを考えてしまったりする。それはどうやってもたらされるものなのか、バカボンのパパみたいにとりあえず「これでいいのだ」のままでよいのだろうか? とか。

あとどうでもいいけど、Dudeがとにかくやかましくてうるさくてうざくて、この神経にさわるかんじのやかましさって、昔どこかで見た気がする、ってずっと思って、あ、”Police Academy”のZed (Bobcat Goldthwait)ではないか、とか。

今回のジョン・フォード特集、やっぱり最後のほうは(自分が)ぐだぐだになって通えないままで終わってしまった。
パート2はがんばりたい。

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