8.01.2022

[film] The Searchers (1956)

7月17日から22日の朝まではインドネシアとシンガポールに行っていた。機内では2本見た。

7月23日、土曜日の昼、シネマヴェーラで始まったジョン・フォード特集で見ました。
これだけ感染が酷くなっているし、フォードの映画なら探せばストリーミングでいくらでも見れるはずなのだが、大画面でおさらいしておきたい(これが最後だから)って思っていそうな老人たちが押し寄せている印象。 念のため、と朝の9時に並んでも前には結構いたのでびっくり。

たぶん、この特集の直接のきっかけとなった、出たばかりの蓮實重彦著 『ジョン・フォード論』の影響はもちろんある。この日の窓口で副読本として買ってとりあえず読んでいくと、ものすごくいろんなことがよくわかって見えてくる(気がしてしまう)のがすごいったら。

邦題は『捜索者』。ゴダールが泣いた、だので問答無用のクラシックとされていて、そうかも?/どうなの? って問いかけながら見て、ものすごく集中して自分が捜索者となって彷徨いながら見てしまうのだが、あと2~3回は見ないとわかんないかも。前回見たのは確かNYのFilm Forumだったと思うが、このときもそんなことを思ったのだった。

オープニングとエンディングの暗い(黒枠の)室内から明るい荒野の光景が切り取られていて、その枠に遠くの向こうから入ってくるEthan Edwards (John Wayne)がオープニング、その枠に入ることができずに外でひとり佇んで背中を向けてしまうEthanの後姿がエンディング。 フォード曰く「家族の一員になることの出来なかった一匹狼の悲劇」である、と。家族の一員になれない一匹狼はかわいそうなのかえ? ってやや突っ込みたくなる今日この頃。

1868年のテキサス、南北戦争に南軍として従軍していたEthanが故郷の兄の家に久々に戻ってきて歓待されてすぐ、コマンチ族に牛を盗まれたという連絡がきて、近隣の男たちが揃って探しにでるのだがそれが罠で、戻ってみると家族は皆殺しにされ、姪のLucy (Pippa Scott)とDebbieが拐われていた。復讐の鬼となったEthanはMartin (Jeffrey Hunter)とLucyの婚約者のBrad (Harry Carey Jr.)の3人でコマンチ族の足取りを地の果てまで追ってそのまま5~6年、Lucyが殺されているのを見つけたBradは絶望にまみれてひとり敵地に突撃していって死んじゃって、残った2人でようやく見つけたDebbie (Natalie Wood)はコマンチ族の宿敵Scar (Henry Brandon) - 彼も白人に家族を殺されている - の娘として育てられていて、Ethanたちのことなんて言葉も含めてちゃんと憶えていないらしいのを発見してしまう。

背景とか経緯にはいろいろあって、Ethanと兄嫁のMartha (Dorothy Jordan)はかつて想いあっていたらしいとか、血の繋がりのないインディアンの混血の子MartinのことをEthanはよく思っていないとか、おそらく南北戦争のPTSDとか、そこにはそもそもの歪められた愛とか偏見とか差別意識とかがいろいろ埋めこまれていて、全体としてEthanの中で煮えたぎる憎悪の炎とそこにかけられた鍋はドラマの向かう先としてわからなくはないがまったく感情移入できるものではなくて、見れば見るほどおそろしい化け物に変貌していくのをドラマはそのまま放置している。

捜索行為そのものは正当化されるものだろうし、憎悪の連鎖があったとはいえ、そもそも無差別に殺して拐っていった連中が悪いのは百も承知の上で、Ethanを傷を負って呪われた、取り憑かれてダークサイドに堕ちたものとして描くことにどんな意味があるのかないのか。 さらにこの作品のテーマに倫理的ななにかを求めようとしてしまうのは自分の中のなにが要因だったりするのか、等について、考えて始めると止まらなくなる。

そういうのが全て集約されているのが、最後にEthanがDebbieを高く抱きあげるシーンで、Debbieが抵抗して暴れてEthanがやむなく締めあげたっておかしくない - いろんなぎりぎりのところを回避してああいうことになる、あの瞬間を引き起こしたのはどちら側のなんだったのだろう? って。あれは、あの描き方は、果たしてよいことだったのかしら? とか。

もしEthanが現代に生きていたら、ネットに入り浸るだけの変質者になっているかもしれない。そのまま気がつけば5年が過ぎている。それくらい彼のなかみも彼に流れている時間も空っぽになったまま穴があいてて、なんだか薄らこわい。

最後に再びひとりになってしまうEthan、あれってなんだかかっこいい態度のように思われがちだけど、結局面倒な家のなかの家事雑事を放棄して映画館やパチンコ屋に入り浸ろうとするやくざな男たちと変わらないのでだめなんじゃないか、いきなり新キャラの誰か - Maureen O'Haraしか思いつかない - が出てきて、あんたなにひとりで佇んでんのよ料理手伝いなさいよ、って耳を引っ張って屋内に引きずりこむべきではなかったか。

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