8.24.2022

[film] C.R.A.Z.Y. (2005)

8月14日、日曜日の昼、シネマカリテで見ました。

“Dallas Buyers Club” (2013)とか“Wild” (2014)とか”Big Little Lies” (2017–2019)の監督で昨年末に逝去したJean-Marc Valléeの半自伝的なドラマで、カナダのケベック州の映画の歴史のなかで最大のヒットとなった、そう。 ケベックなのでほぼフランス語なの。

1959年のクリスマスの日、Zac (Marc-André Grondin)はBeaulieu家の4番目の男の子として生まれて、生まれた時に死にかけていたり、抱っこしようとしたところを落っことされたり、こいつはなんかあるのかも、って思うのだがなんかありそうであまりなかったりする。

兄妹は上から本と活字の虫のChristian (Maxime Tremblay)、ジャンキー志向のRaymond (Pierre-Luc Brillant)、スポーツばかのAntoine (Alex Gravel)、Zacのあとに生まれたYvan (Félix-Antoine Despatie) - 上から頭文字を並べるとC.-R.-A.-Z.-Y.になる。父 - Gervais (Michel Côté)は一見問題ありそうだけど典型的ながんばっている父で、酔っぱらっていい気分のときに歌うお気に入りはCharles Aznavourの"Emmenez-moi"(1968) -『世界の果てに』で、あとはレコード盤で大切にしているのがPatsy Clineの"Crazy" (1961)で、これもタイトルに関わっている。

30年にも渡る家族のストーリーには、結婚式とかお葬式とかあったりするものの、大きな流れとかうねりとかどんでんがある、というわけではなくて、父母と5兄弟が年を経ていくなかで、特にZacにおいて顕著になってくる「男らしさ」へのアンチや同性愛への傾斜、とはっきりと対立するようにして立ちはだかる父のホモフォビア & ヘテロセクシズムにいかにぶつかったり逃げたり絶望したりイラついたりしながら向かっていったか、結果彼がどんな大人としてできあがっていったのか、をいろんなエピソードを中心に描いていく。父が常に前面にいて、男ばかりの5人兄弟の世界で、なんの反省もなく当然のものとされてきた男の性のありようがどんなに居心地悪く、場合によっては正面から傷めつけにくるものであったか。

現代となっては普通に受け容れてもらえそうなZacの生来の傾向も、父からすれば俺の息子に限ってはそんなのありえない、となるし、でもZacにしてみればどうすることもできない切実な何かで、認めてくれとは言わないまでも、それで父との縁を切る程ではないし彼のことは嫌いになれないし、どうしたらよいのか.. って空を仰いでしまう。そしてこれは(幸いなことに、と言ってよいのかどうか)Zacだけではなく、たまに破壊屋として現れてなにかをぶち壊して消えていくRaymondについても同じことが言えて、(ほんの少しではあるが)どいつもこいつも、だったりする。

やがて家族にその居場所がなくなったZacがやけくそのように(母の小さな夢でもあった)エルサレムに巡礼に向かいそこから砂漠に迷いこんで死にそうになるところは後の“Wild” (2014)にも繋がるような。どれだけ八方塞がりの絶望的な状態にあっても、隣のひとも自分も捨てるわけにはいかないのだ、っていう業、みたいなところは“Dallas Buyers Club” (2013)を思い出す。どれもそれぞれの苦難を懸命に生きて、実際にそこにいたちょっと変わった人々の話で、これらの起源にこの少し狂った物語を置いてみると、なんかしっくりくるかも。世界のどこかに必ず居場所はあるんだから、だいじょうぶだから、って。

あとは、ドラマの節目とか背後に流れてくるJefferson Airplane “White Rabbit”とかDavid Bowie “Space Oddity”とかThe Rolling Stones "Sympathy for the Devil"とかPink Floyd "Shine On You Crazy Diamond (Part One)" とかCureの”10:15 Saturday Night”とかの音楽がもたらす厚みとか意味合いもきちんと考えられている(時系列はどうみてもきいても”?”なところがあったけど)。 あえて言えば、音楽的なところだと、主人公がZiggyのメイクをしたりしているとこからも、やはりグラム→パンク or グラム→ゴス でがんがん攻めるべきだったのではないか。70年代のPink Floydって、最近いろんなサントラで聴く気がするのだが、どうしてもWetな変態として張り付いてくるかんじになって、あんま気持ちよくなかったりする。

でも、Patsy Clineの“Crazy”の歌詞とかみると、あー、ってみんな腑に落ちてくるような:

I knew, you'd love me as long as you wanted
And then someday, you'd leave me for somebody new

Worry, why do I let myself worry?
Wondering, what in the world did I do?
Crazy for thinking that my love could hold you
I'm crazy for trying and crazy for crying

C.R.A.Z.Y. って、実はそんなにぜんぜん、Crazyでもないのよ、って。
(ていうのと、ここに”Shine On You Crazy Diamond”を並べてよいのかなあ、とか)

Zacの役って、もろ”Boogie Nights” (1997)の頃のPhilip Seymour Hoffmanがイメージなんだけど。そうすると父役は.. ?

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