8.28.2022

[film] La passante du Sans-Souci (1982)

8月20日、土曜日の昼、ル・シネマのRomy Schneider特集で見ました。

邦題は『サン・スーシの女』、英語題は”The Passerby”。
監督はJacques Rouffio、助監督にはClaire Dénis 、原作はJoseph Kesselの同名小説(1936)- この人はLuis Buñuelの『昼顔』やJean-Pierre Melvilleの『影の軍隊』の原作も書いている。音楽はGeorges Delerue (すごくよい)。
これがRomy Schneiderの遺作となって、映画は撮影が開始されてから亡くなった彼女の息子とその父に捧げられている。

パリの空港にMax Baumstein (Michel Piccoli)がやや疲れたかんじで降りたって、再会を心待ちにしていた妻のLina (Romy Schneider)が暖かく迎える。彼は国際人権擁護委員会のようなところの偉い人でその会議のために来たらしいのだが、泊まっている部屋に届けられた封筒に入っていた報告と写真をみると顔色が変わって、その後、パラグアイ大使館の大使と面談中に「おまえはMichelとElsa Wiener夫妻のことを知っているだろう?」と聞いてから彼を撃ち殺してしまう。

当然、人権擁護の委員会の長が! って大騒ぎになって、突然すぎてLinaにも何が何だかわからないのだが、法廷の場でのMaxの回想に入っていく。

1933年のベルリンで子供だったMaxは道端でナチスの暴漢らに襲われて目の前で父親を殺され、自分も片脚を不具にされ、そんな彼を救ってそのまま自分達の子として引き取って育ててくれたのが近所にいたMichel (Helmut Griem)とElsa (Romy Schneider - 二役)のWiener夫妻だった。

出版社を経営していたMichelはナチスの弾圧が酷くなってきたのでパリに亡命しようと3人で列車に乗りこむのだが、彼だけは逃げきれないことを知ると、そこに居合わせた商人のMaurice (Gérard Klein)に札束を渡してElsaとMaxの面倒を見てもらいたいとお願いしてから捕まってしまう。

パリのElsaは地下に潜って細々とMichaelの生存情報をつかみながら彼を手元に取り戻すべくクラブで歌ったりホステスをしたりなんでもやってぼろぼろになりつつ、ようやくナチスの将校Federico Logo (Mathieu Carrière)に行き当たって彼に自分を売って、ようやくMichaelを迎えることができたと思ったら…

Elsaの傍でその様子をずっと見てきて復讐すべき相手を捜索し、その機会を探ってきたMaxがようやくこの歳になって、敵が亡命して名前を変えパラグアイ大使となっていることを知って今回の犯行に及んだのだと。

ナチスのユダヤ人虐殺という戦争犯罪、戦犯に対する執念の追跡〜復讐劇、というよりは、『マックスとリリー』と同じく、”Max”という名のMichel Piccoliの鉄の意志がじっくり積みあげてきた過去からのものを最後にがらがらと自分でぶち崩してそれがなにか? っていうやつと見ることもできて、これは更にものすごく熱くて、人権とは何か、それはなぜ守らなければいけないのかを自身の仕事として(おそらく数十年に渡って)問いながら、それでもなお絶対に許せない過去が彼のなかでは沸騰し続けていたという重さが広がるのと、更にRomy Schneiderが二世代に渡って彼の庇護者のようなかたちでその目を腫らしながら彼の手をとってずっと覆いかぶさるように彼の痛みを受けとめていた、ということと。

ここに何度も撮影が中断したRomy Schneiderの晩年のエピソード - 愛息の死 - を重ねると言葉を失ってしまう。この作品の惜しみなく愛を与える(二役のどちらも)という役柄を見てしまうと特に。

少しだけ思ったのはLinaはMaxの過去の苦しみとか彼がずっと追い求めている暗い何かについて、全く聞かされてこなかったのか、というのと、世界中の人権問題に仕事として携わりつつも、そこまで押し殺した痛みが彼のなかにはずっとあったのか、消せるものではなかったのか、っていうのと。消せなかったのだろう - だから/それでも人権のことは蔑ろにしてよい、というものではないというのと。(映画のなかでは、裁判の結果は執行猶予で、その半年後にLinaとMaxは殺害された、と字幕で出る)

教科書で人権を教えることをやめたその状態の反対側でヘイトを放置し差別主義者を称揚するこの国がどこに行くのか、ほんとうに恐ろしいし吐き気がするし。 列車で亡命できたらよいのに。

Romy Schneider特集、もうちょっと長くやってほしかった。まだ見れるやつは見るけど。

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