8.29.2022

[film] A feleségem története (2021)

8月21日、日曜日の午前、新宿ピカデリーで見ました。

ハンガリー映画で、ハンガリー語のタイトルを翻訳にかけると「妻の話」。邦題は『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』、英語題も”The Story of My Wife”.
監督のIldikó Enyediさんは”On Body and Soul” (2017)と”My 20th Century” (1989)を撮った人(なので見たくなった)。 原作はハンガリーの作家Milán Füstによる同名小説 (1942) - 正式タイトルは”The Story of My Wife: The Reminiscences of Captain Störr”で、監督がティーンの頃から愛読して、映画化を切望していた一冊だそう。

1920年代のヨーロッパで船乗りで船長をしているStörr (Gijs Naber)は仕事の信頼も厚くて責任感もあるのだが、ずっと独り身で体調もよくなくて、停泊していたパリのカフェで、そりゃ嫁を貰えば解決するよ、って言われたのでじゃあ次にカフェに入ってきた女性と結婚する、って宣言する。そこに現れたのがLizzy (Léa Seydoux)で、Störrが申し出るとLizzyはあの目で「いいよ」って即答して、ふたりの結婚生活が始まる。

まるで昔の(最近のは知らない)村上春樹の小説みたいにおとぎ話ぽく身勝手な男のやり口や目線から入るのだが、とにかくStörr から見たLizzyは魅力たっぷりで、でも家族とか交友関係とか自分がいないときになにをしているのか、など謎だらけで、その戸惑いとか混乱ぶりが女性監督の目線から – Léa Seydouxのあの目と佇まいを通して - 綴られているのがおもしろい。

いや結婚するならふつうもう少し付きあって互いのことを知り合ったりした上でじゃないの? そんなの設定からしてありえない、というような人は見ないほうがよいかも。どれだけ付きあって結婚したってうまくいくのもあるしいかないのもあるし、わかりあえるわけでもないし、結婚なんてどうせばくちなんだから、って7章 – 169分にわたってこのふたりのくっついたり離れたり - 夫が見た(ぐしゃぐしゃ推測ばかりの)妻の物語が女性監督の視点で細かに暴かれていく。

Lizzyはおしゃれだし社交にも長けていて貴族のぼんのDedin (Louis Garrel)との付き合いとかStörrには気になる点がてんこ盛りで、自分がいない間に彼女はなにをやって過ごしているのか、探偵を使って調査させてみても怪しい何かはでてこない – でも不安で気掛かりでしょうもない… そもそも彼女は自分を愛しているのか、割と軽蔑してるんじゃないか(←あるかも)、など。

Störrは船上の生活と陸上の生活、どっちもどっちで落ち着かず、安定した収入を求めてハンブルグに引越したり、豪華客船の船長をやってみたりいろいろあって、その過程で客船で知り合った娘と浮気もしたりして、そんなでもLizzyは変わらずについてくるし、ふたりで官能に溺れたりもするし。一緒にいる時間の長短でもない、近い離れているの距離でもない、欲望や快楽でもなさそう、その状態でふたりの人間が一緒にいるというのはどういうことだったのか、って。

人と人がわかりあう(わかりあわらせる)ことを前提として成り立っている粗雑で乱暴な男の社会で、「わかりあえないこと」のあったりまえさとか「わかりあえること」の不条理・不可能性とか、そのしんどさにどう決着をつけうるのか、の精が例えば”On Body and Soul”の夢のなかの鹿とかだったと思うのだが、ここではどこのなにを見ているのか、どこに向かってなにを求めているのかよくわからないLéa Seydouxのあの冷めた眼差しにすべてが込められている気がした。鹿だと「がんばれー」って念を送るくらいしかできなかったけど、Léa Seydouxだと、ここでナイフを..とか、ここで毒薬を.. とかそういう妄想が膨らんでいくので楽しくて本人もわかって演じているような - 実際には(原作もあるだろうし)そういう場面は見事なくらいにないの。消去法でじわじわとあぶり出されたり焼かれたりしていくrom-comみたいなかんじ。

あえて言うとすれば、これだとあまり”The Story of My Wife”として語られるような内容にはなっていないかも - 彼女はいつもそこにいたよ、っていう「ぼくの妻はレア・セドゥ』みたいな(注:昔、そういう邦題のがあったの。シャルロットの)、それだけの話で。 あと、“The Worst Person in the World” (2021)は、本当はこんなふうに描かれるべきだったのではないか、とか。

あと、ずっと不敵な貴族の仏頂面してるので、てめえなめてんのかおら、って思いっきりどつかれて顔面血まみれになるLouis Garrelとか、ちょっとかわいそうだけど笑えた。

で、この後に歌舞伎町の方に向かってThe Fallのイベントにでて、すこし元気になった。

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