4.17.2021

[log] Top Withens

もう自分に残された時間はあまりなくて、でも国を跨いでどこかに行ったり飛行機に乗ったりすることは未だ許されていないのでどうするかというと英国内でいつかは行こうと思っていて行けていなかった場所を地道に潰していくしかない作戦をはじめる。もちろん普段の日は仕事もあるし引越しの箱詰めもあるのでなにが地道だ、とかどこまで足を伸ばせるのかとか、なんとも言えないのだが、やってみよう。

こうして先週の土曜日はNorwichに行って大聖堂を見て、行きたかった本屋(The Book Hive)は開いていなかったので外から眺めただけで、更に電車に乗って昔の観光地 - Cromerのビーチに行って北の暗い海を見つめた。

今週 - 今日は、長年のなんとしても案件だった嵐が丘のHowarth と小説で描かれた原野ひと揃えを見て歩いてきた。最大の懸念はお天気で、崩れて寒いと頭いたくなるし、でも暑いのは苦手で嫌だし、でもそれを言っていると延々行けなくなるのでこの日だって決めたら快晴で天気よすぎて雰囲気が..  でも贅沢いわない。

電車を乗り継いで更にバスに乗ってHowarthの町に行って、ブロンテ姉妹の生家だった博物館はまだクローズしていたけどショップは開いていたので地図 - ちっとも役に立たなかった - を買って、ここから歩いてTop Withensを目指す。はじめは原野の端っこだけみて触ってこれがそうかー、ってわかればいい程度のつもりでいたのだが、結局どうせ行くなら… になってしまう弱さ。

天気の次の懸念は自分の体力で、とにかくここ1年、運動みたいなことは一切やってこなかったし、その前からだってずーっとなんもやってこなかったし、運動に必要となりそうな持久力と耐久力は本屋・レコ屋巡りと美術館廻りとスタンディングのライブとたまに食物を求めて並ぶ、これらのため「だけ」に最適化されてきたので、この状態で吹きっさらしの原野を歩いたらどうなるのか、わかんなかった。まあ広義の本漁りとアート探訪ということにすればがんばれるかもな、ってヒトゴトで。

博物館を出たらもう横の敷地で羊がわあわあ鳴いてて、ああ羊の国だったのだわと思いつつ、延々続く畑路をどうするこれ、とか思いながらまずはBronte Waterfallに向かって歩きはじめたのだが、そこまでの微妙な畝りになだらかだったり急だったりの高低、岩と砂利と泥のミックスからなる獣道のような足回りに脚がぐだぐたになり、ほうら言わんこっちゃ、になったのだがここから引き返すのはそれはそれで面倒な気がしたので(←墓穴)2分くらい休んで、次のTop Withensに向かうべく滝の上の方に登ってみたら、案内板には1 mileとかあるのにTop Withensがうーんと遠くに虫みたいにちらちらしていて、あーしぬかも、って思いつつもそこに向かうしか道はない。

天気がよいので人が出ているかと思ったがそんなでもなくて、彼方にぽつぽつ、程度。前を行くひとが消えたり現れたりするのは高低差があるからよね、とか考える余裕があった頃はまだよくて、なんでただのばーんと広がる原野にしか見えないのにこんなに登ったり降ったりするんだ、とか、なんでこんなありえない平原の奥に農家(の跡)みたいのが建ってるんだ、とか、こんなんじゃ一家そろって荒むわけだわ、とか呪いの言葉を吐く余力もなく、登りきる前に倒れて運ばれたりしたらみっともないな、と思ったことだけは憶えている。

とにかく時間をかけてぼろぼろの状態でTop Withensにはたどり着いて、寝転がって2年くらい前に賞味期限の切れてるカロリーメイトを水で流しこんで、草の間で少し落ちて(気持ちよかったー)少し回復した気になったので帰ることにした - 帰るしかないだろ。

歩きだしてから帰りの経路をよく考えていなかったことに気づいたがみんなが歩いていく方にいけばよいのでは - あと同じルートで戻ってもつまんないし往きは相当きつかったし - ってヒースやいろんな草の茂みの中を歩いたり羊と睨みあいをしたり - 角があるやつであの目で睨んでくる - していたらあーらふしぎバスが通っている通りに出たのでバスがくるのを待ってそれに乗ってHowarthに戻った。

景色はとにかくでっかく横斜め方向に広がってくれるので気持ちよいのだが目先足先は草ぼうぼうだったり泥ぐしゃだったり岩だらけだったり酷くて意地悪で、ここに小説や映画で描かれたような風ぼうぼう雨ざあざあの横殴りがやってくると、間違いなく誰かのせいにしてみたり葬ってやりたくなったりするだろうな、って。例えばこういうどうすることもできない理不尽な力に振り回されるようなところで文学の想像力が育まれる、ていうのはとてもよくわかる。というかこの場所であんな物語を創造したのってやっぱりすごい。この驚異の前にはどんな映画化の、映像の力もかなわないのではないか。

iPhoneの計測によると11マイル歩いて、88階分登ったって。 もうあと3年くらいは運動しないことに決めた。

 

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