4.29.2021

[film] Sisters with Transistors (2020)

4月21日、水曜日の晩にCurzon Home Cinemaで見ました。
英国映画だが、制作にMetrographも噛んでいるようなのであっちで見てもよかったのかも。

まずはタイトルがものすごくかっこいい。そのままバンド名になってもおかしくないかも(もうあるのかも)。
監督はこれが長編デビューとなる女性のLisa Rovner。この人、”Babyteeth”のクレジットでSpecial Thanksされているのだが、なにか関わったのかしら? 

電子音楽というジャンルがなかった第二次世界大戦の頃から独りで電子や電気のあれこれに魅せられて、それぞれのやり方で音楽や電子音響への道を開いていった女性たち10人 - Clara Rockmore, Delia Derbyshire, Daphne Oram, Eliane Radigue, Bebe Barron, Pauline Oliveros, Maryanne Amacher, Wendy Carlos, Suzanne Ciani, Laurie Spiegelのストーリー。

こうして女性がそれなりに活躍してきたのに「歴史」はそれを、というか「歴史」=「男性」が明確に見て見ぬふりをしてきたあれこれを暴くやつ。ドキュメンタリー映画としてはこれまで  “Bombshell: The Hedy Lamarr Story” (2017) のHedy Lamarrとか、”Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché” (2018) のAlice Guy-Blachéとかがあって、電子音楽のジャンルでは、本作品でも登場するDelia Derbyshireさんを取りあげた”Delia Derbyshire: The Myths and Legendary Tapes” (2020) もあった(この作品と一緒に上映してもよいのでは)。この辺のことは予告編のなかでもかっこよく簡潔に語られている。

“Somehow women get forgotten from the history – the history of women has been a history of silence of breaking through the silence – with Beautiful Noise”

というわけで、それぞれの業績や音や音楽について、Laurie Andersonさんをガイド(ナレーション)に、当時の記録映像を繋ぎながら紹介していく。Jean-Michel JarreやKim Gordonのコメントも入るが彼らの登場は声だけ。エンドロールでは既に6名が亡くなられていることがわかるのだが、存命されている場合は彼女たちの現在の姿も少しだけ。

なんでここにきて突出した個人、というよりもトランジスタで音楽を奏でる10人が? というのは、別にいただけできちんと紹介されて来なかった、というのもあるけど、注目すべきのはその同時性の方なの。 誰が一番最初にそれをやったのか、誰が一番革命的だったのか - そういうことではなくて、それぞれが互いのことを全く知らなかったのに、同じ時期に当時出てきた電子技術にそれぞれのやり方で向き合ってDIYで試行錯誤しながら音楽を作っていく、そういうひとりひとりの女性たちが大陸を跨いでこんなにもいた、ということを、その見えないシスターフッドの糸を紹介することには大きな意味があるのではないか。

紹介されたひとり、Pauline Oliverosさんの追求したテーマ“deep listening”や“sonic awareness”が興味深い。“It will effect a great change. Listening is the basis of creativity of culture.”。 聴くこと、「沈黙」も含めて耳を傾けて、そこにあるもの、あったものを、誰も聞いたことがなかった音を拾いあげること、物理的に見えない音や波を増幅してその居場所を与えること、それらのノイズでその場を支配してしまうこと。 このドキュメンタリーのやっているのもそういう活動の続きなのだと。

彼女が50年以上前に書いた文章 - “And Don’t Call Them Lady Composers” (1970) – ぜんぜん古くない。
https://www.nytimes.com/1970/09/13/archives/and-dont-call-them-lady-composers-and-dont-call-them-lady-composers.html

音楽は誰かの耳に入って彼の/彼女の鼓膜を震わせてはじめて音楽になる。歴史もそれに近いところがあって、ここで発掘されて紹介された半世紀以上前の音たちが、シスターたちの活動が、世界中の女性たちのなにかに火をつけて広がっていったらすばらしい。その点でも公開されてほしい。 こういう発掘作業、映画の世界だと”Women Make Film” (2018)があったし、抽象絵画だと一本には纏まっていないけど50年代後半のNYの女性画家のショートとかいろいろあるし。

Delia Derbyshireさんのドキュメンタリーにもあったが、子供の頃の戦争体験 – コベントリーで聞いた空襲警報の音とその後の静寂とか、Eliane Radigueの場合は近所の飛行場の爆音とか、男たちが戦争でいなくなったところで手にすることができたなにか、というのはあったのだろうか。あと彼女たちにほぼ全員にクラシックの素養があって、それなりに裕福な家の出であったり、というあたりも興味深い。

男女の向き不向き、みたいな話をするつもりは全くないのだが、例えばお料理に近いようなところもあったりするのかしら? いちからレシピを作っていくような、つまみを加減して調節して時間を計っていろんな素を放り込んで、生きていくために必要ななにかを作って盛って、それをみんなにサーブして、みたいな。

アーカイブ映像のなかでは、Maryanne Amacherさんの家でわざとらしく耳を塞ぐとっても若いThurston Mooreとか、同様にすごく若いPhilip Glassとか、映像が楽しいところも。

でっかい音をだしてみたくなる。随分鳴らしてないし。

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