4.27.2021

[film] Druk (2020)

4月20日、火曜日の晩、MetrographのVirtualで見ました。

昨晩の(だけど英国は深夜過ぎて起きていられないので翌朝になる)オスカーで、Best International Feature Filmを受賞したので先に書いておく。今年の同賞候補は”Collective”も”Quo Vadis, Aida?”も悪くないと思うのだが、Mads Mikkelsenひとりが持っていった、としか言いようがない。デンマーク映画で、原題を翻訳にかけると”Binge drinking” - 酒浸り。英語題は”Another Round” - こっちの方がいいかも。

冒頭に黒に白抜きの字幕で、キルケゴールの”What is Youth?”と”What is Love?”が表示される。

それからなにかのお祭りだか大会だかで、ビールを浴びるように飲みながらぐるぐる狂喜して走って競争している若者たちの姿が描かれる。下戸の人から見たらホラー映画ではないかと思う。

そうやって青春の飲酒を謳歌していたであろうMartin (Mads Mikkelsen)は高校の歴史の教師で、いまは明らかに仕事への情熱を失って目は虚ろで挙動も不気味で、生徒はだいじょうぶかこいつ、という目で彼を見ている。同僚の教師 - Tommy (Thomas Bo Larsen)、Peter (Lars Ranthe)、Nikolaj (Magnus Millang)も同様で、音楽や哲学やスポーツの担当教科それぞれでどんより目的を見失った状態になっていて、家族との間もうまくいっていないので、みんなで集まって対策を協議する。Martin以外の3人は酒を飲みながら。

その会で、ノルウェーの精神科医Finn Skårderudの学説 - この人は実在する人だが本当にそれを言ったかどうかは不明 - 人間の血中アルコール濃度(BAC)は常に低すぎるのでこれを0.05%に保つように努力している – とか、ヘミングウェイは日中浴びるように酒を飲んでいたが午後8時以降は一切口にしなかった(それでも名作をいっぱい書いた)、とか、要するにちょっとくらい飲んだって構わないのだ、ということをみんなで確認(正当化)して、測定器で各自モニターしつつBACを0.05%に保っていったらどうなるか - 常時0.05%で満足できるかどうか、を試してみる。つまり普段のお水の瓶に透明なお酒を混ぜて飲みながら仕事をしたらどんなことになるだろうか、と。

こうして0.05%のガイドラインに合意して足を踏みこむのがPart1で、Individual BAC(アルコール濃度は人それぞれでいい)を追求してみるのがPart2で、Maximum BAC(行けるとこまで行ってみろ)がPart3。アルコール依存症の恐怖を訴える啓発ビデオのような章立てで、でもなによりもすごいのは、しばらくなんらかの事情で飲酒をやめていたと思われるMartinが酒を一口流し込んだ途端に顔色が変わり目になにかが蘇るその瞬間の変容ぶりで、これを特殊効果とか無し(カメラの動きはちょっと絶妙)の演技のみでやっているのだとしたらMads Mikkelsenおそるべし、しかない。

こうして生徒に評判の悪かった彼の歴史の授業は生徒も教師もノリノリのそれに変わって、他の仲間たちも同様で教育の方での効果は現れるのだが、それぞれの家庭ではおねしょしてしまったりあなた何やってんのよ、になっていって、やがてやっぱり事故が。

お酒を飲むのが好きな人にとってお酒を飲むことがどんなふうに彼らの日々の活動や行動を活性化して明るく楽しくしてくれるのか、お酒を断つことがどれだけ彼らの活動を萎ませてくれるのか(+少しだけ家族とか周囲への影響云々)を主に酒飲みの目線で綴っていくのだが、酒飲みでない人にとってはドラッグ依存症の人々の映画を見るのと同じで、飲まなきゃ/関わらなきゃいいのに…  しかないのはいつものこと。手を出さざるを得ない閉塞感とアルコールと再会したときの歓びとか(”I miss you too.”)は、あのラストシーンで十分に表現されている、と思うものの、だからわかるだろ、わかってよ、にそう簡単にはならない。酔っ払いに嫌なことをされた記憶はそう簡単に消えるもんではないからー。

あとは冒頭に出てきた一気飲み競争みたいなのとか、教職の人がそうなっちゃうかーとか、この辺はその土地の文化みたいなもの – だとしたらやっぱしきついかも。酒は人をつなぐから、とかわけわかんない題目で強要されるのってまだ会社社会ではあるのだろうけど、これも酒を飲んで楽しい人の言い分でしかないのでいい加減やめてほしい。

そういうのを除けば、こないだの”Days of Wine and Roses” (1962)などと並べて、酔っ払いの奇妙な挙動とか生態を横で眺める(だけの)映画としてはわるくないの。こういうのって中年男性が演じるからおもしろい、っていうのはそれなりの理由があるからよね、とか。上に書いたお酒に向かう文化とか態度みたいなのの強さ弱さって国や地域によってたぶんいろいろ違いがあるよね、とか。

映画としては、真ん中にMads Mikkelsenがいたことが全ての成功の要因だとしか思えない。ほんとそれだけで、それくらい彼の存在がでっかい。

オスカーの他のは - “The Father”だけまだ公開されていないので未見だったが、あんなもんかしら程度(あんま興味ない)。 Best Documentary Featureだけなー。”My Octopus Teacher”、別に悪いとは思わなかったけど、仕事に疲れて虚無に囚われた白人男性がタコに教わる、ってその目線がなんかやなの。タコでもクラゲでも虫でも教わるのはいっぱい、いくらでもあるよ、謙虚になればいいだけなのに。 今はみんなああいうのを求めているんだろうな、って。


St. Ivesから戻った土曜日は、少し寝てからグリニッジ天文台とかを見にいった(外から見ただけ)。日曜日は、Stratford-upon-Avonにシェイクスピア先生の生家とかRSCとかを見にいった(どこも外から見ただけ)。その場所に行って外から見てここかーってイメージするだけでもいいの、になってきた。

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