4.15.2021

[film] Conte de printemps (1990)

4月5日、月曜日の晩、イースターの連休はなんだったのだろう… ってしょんぼりしつつFilm ForumのVirtualで見ました。ここでÉric Rohmerの「四季の物語」が順番に(リリース順みたい)かかる。これがリリースされた90年代の前半はNYにいて、映画にそんな興味もなかったので見ていなかった。ちょっと楽しみ。英語題は”A Tale of Springtime”。  邦題は『春のソナタ』。もう春だし。

リセの哲学教師のJeanne (Anne Teyssèdre)が誰もいない部屋に入って乱雑に脱ぎ捨ててある服とかを片付けようとして少し考えてやめて、本棚からカントとかを拾って(そこに並んでいるのはヘーゲル、フッサール、プラトン、ゲーテの「ファウスト」、ウィトゲンシュタイン、など)、今度は別のフラットの部屋に入ってそこに現れた女性との会話を聞くと、前にいた方がつきあっている男の部屋で、新しい方が彼女の部屋 – 壁にはウィトゲンシュタインの写真、ホックニーにマティス – であることがわかり、そこに泊まりに来ているいとこがごめんもうちょっとだけここにいてもいい? と頼むので、いいわよ、とか返している。

Jeanneはそのままどこかのパーティに出かけて18歳のNatacha (Florence Darel)と出会い、Natachaはうちいま誰もいないから泊まりにおいでよ、と誘い、Jeanneは実は行くところないんだ、ってそれに乗る。彼女の父親のIgor (Hugues Quester)は文化庁のようなところで仕事をしていて女友達と一緒にいるので家にはほぼ寄りつかないのだという。そうしてNatachaは壁に掛かっている彼女の祖父や祖母の肖像のこととか、音楽院でやっているシューマンの「暁の歌」を弾いてくれたり、どこかに消えた家宝のネックレスのことで父を恨んでいることなどを語る。 でも翌朝になるとめったに現れないはずのIgorが現れて、なんとなくその流れで彼がつきあっているÈve (Eloïse Bennett)も加えて4人で食事をすることになる。

どうもNatachaはネックレスの件絡みでÈveのことが気に食わないようで、週末に彼女の田舎の別荘に行ったらIgorとÈveが既にいたのでなんか嫌だな、ってJeanneとÈveの間の哲学の話(カントの分析とか総合とかを食卓で言いあうの)は置いて嫌味たらしくÈveを追い払って、そのあとでNatachaは自分の彼と仲良く出かけてしまい、JeanneとIgorをふたりきりにしてしまう… これもまたNatachaの思惑なのか。

哲学がどうであれ(たぶん関係ないこともない)、登場人物たちの相性だの直感だのがどうであれ、風に吹かれたり水に流されたりするように人は寄っていくところに寄るし、離れるときには離れて、その決断の行方も、それが恋になるかどうかなんてのも知らんわ - 神のみぞ知る、でいいの。

これまでの「六つの教訓的物語」や「喜劇と格言劇」のシリーズは、主人公たちの決断や思いがいろいろあってそれらはこういう結果になりました、っていう因果を本を読むようにすとん、て腑に落としてくれる瞬間があって、このシリーズでも主人公たちは決断したり思惑があったり、でもその行く末は四季が移ろうように、音楽が流れて遠ざかるように揺れて集まったりくっついたり別れたり、誰も結果責任(やな言葉)みたいのを負おうとしていないように見える(し、彼らは前シリーズの登場人物たちほど、自分達のことを語ろうとしていないような)。登場人物たちは不安定なサークルの渦のようなものに身を任せていて、演じている彼ら自身も自分がどこに向かっているのかわかっていないような顔をしている。 ドラマのありようとしてはぜんぜん違うかんじで、これはこれで面白い。世を渡っていくためのお勉強になるならないでいうと、ちっともならないけど、そういうもんだし。まだ一つ目なのでなんとも言えないけど。

こういう人々のありようにもう少し意地悪なSMぽい目線を持ち込むと成瀬みたいになるのではないかしら。善人も悪人もいない、ただ乱れたり流れたり動いていく(だけの)世界。


今日の夕方、Rough Tradeのストリーミングで、Richard Thompson氏の自伝本 - ”Beeswing: Fairport, Folk Rock and Finding My Voice, 1967–75”の出版を記念して、彼とJoe Boyd氏の対談があった。時間は50分くらいだったので、そーんなに深い話にはならず、Joeがすばらしいと思う曲は”Sloth”と”The Angels Took My Racehorse Away”だとか、共演したミュージシャンのなかで印象に残っているのはDavid Thomasだったとか。

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