4.28.2021

[film] Clockwatchers (1997)

4月18日、日曜日の晩、MetrographのVirtualで見ました。

コメディアンのJohn Earlyさんの熱狂的なイントロ - 11歳のときにこの映画をレンタルビデオ屋で借りて以来、この映画は自分にとっての”Star Wars”になった云々 – から入る。JillとKarenのSprecher姉妹が脚本を書いて、Jillが監督をしている。日本ではビデオスルーにすらなっていない模様。おもしろいのに。

Iris (Toni Collette)がGlobal Creditうんたらという格付会社(?)に派遣されてきた初日から、受付のところで2時間以上待たされて、聞かれたので事情を告げるとなんで言ってくれなかったの、って軽く怒られて誰か - 産休かなにかで不在 - の机をあてがわれて、タイプするようにって書類の束をどん、て置かれて、このフォームは高いから無駄にしないでね、と言われる。

会社に入った時点からすでにいない人として扱われ、自分ではない人の机に連れてこられ、仕事の指示以前に書類のことを心配される、これが血も涙もない派遣社員(Temp)の世界で、Muzakがオフィスを優雅に流れていくなか、Clockwatchersっていうのは早く終業時間が来ないか、ってトイレに籠って時間を潰したり、時計をじーっと見つめ続ける彼女たちのことをいう。Irisは同じセクションの派遣の同僚であるMargaret (Parker Posey)、Paula (Lisa Kudrow)、Jane (Alanna Ubach)にいろいろ教わったり一緒にランチしたり、文具供給係のおっさんとか郵便係のあんちゃんとか名前を覚えてくれそうにない元締めのおばちゃんとかと日々のどうでもいい – けど彼女たちにとっては決死の攻防を繰り広げていくの。

職場の女性を描いた映画でいうと、セクハラ上司に立ち向かった”9 to 5” (1980)あたりの威勢のよさは微塵もなくて、搾取とかハラスメントとか、そういう用語が入りこむ余地のない契約で職場カーストにおける派遣の位置は厳格に定められていて、それは誰にでも取り替え可能な仕事を取り替え可能な人がただ機械のように事務処理を実行するだけのポジション、としてある。 それは首のない人体がそこにいるようなもん、でしかない。

Irisの少し後に職場に正社員として入ってきたCleo (Helen FitzGerald)との待遇差を見ても明らかで嫌になっちゃうくらいなのだが、雇う側は嫌だったら辞めてくれてぜんぜん構わないから、で来ているのでびくともしないの。地獄じゃないよ、抜けられるでしょ、って軽くいうの。くそったれ。

そのうち職場でいろんなモノがなくなる事件が起こって、まずは派遣の彼女たちが疑われて、監視カメラを付けられたり抜き打ち検査をされたり、ちょっともういいかげんにしろよ、になってきて…

時代的なところは正確にはわかんないけど、80年代の好景気を背景に働き方のひとつのスタイルとして隆盛を極めた「派遣」が当たり前になってきた頃のオフィスの話なので、今とはやや事情が異なるのかもしれないが、この時点でもこういう雇用のあり方はどこをどう見てもおかしいのではないか、というかんじはとってもするしあるし。 特に、不況の皺寄せが一気に襲ってきている(よね?)日本の派遣のケースを見ているとこんなのほんとにただの奴隷じゃないか、って。でも雇用する側にとっては痛くも痒くもないので奴隷制よりも悪質だし。

でもこの映画に登場する4人は(当たり前だけど)キャラクターも適度にばらけて、ひと固まりになっていなくてよいの。絶妙な不機嫌のToni Colletteも、豪快なParker Poseyも、適当なLisa Kudrowも、シリアスになるのでもおちゃらけるのでもなく戯画化される一歩手前で、なめんなよ、って見事なアンサンブルを見せてくれる。

でも1997年て、撮影したのが1996年だったとしても、オフィスには既にメールもネットもあった時代なので、そういう道具がほぼ出てこない - 旧型のデータ入力専用みたいなPCは置いてある - のってどうなのかしら、は少し思った。メールやチャットがあればもっといろんなことができたはず。

派遣とはちょっと違うけど、小さめの会社でいいように酷使されるアシスタントの女性を描いた”The Assistant” (2019)も日本で公開されてほしい。 疲弊しててそんなの見たくないかもしれないけど、そういう世界はあるんだからな、って男どもに。 お仕事ばんざい恋愛ばんざい映画はもういいの。

自分は派遣ではないけど、ずっとClockwatcherだったねえ(今も)、とは思った。仕事は続ければおもしろくなる、って言われたけど、会社も変わったけど、結局仕事きらいなままでずっと来てしまった。職業を選ぶのって大事よね、って今更思ってももうおそい。


お昼に、最後のあがきシリーズで、The Fallの総括本 - “Excavate!: The Wonderful and Frightening World of The Fall”などを買いに久々にRough Trade Eastに行った。店内のレイアウトが変わってて、中古盤が増えてて、帯のついた日本盤がいっぱい壁に貼ってある。中学生でレコード買い始めた頃から帯ってばっかじゃねーの、ってばりばり破って捨ててきたので、帯がついてる中古を見るとふうん、て思う。

Tha Fall本はまだぱらぱら眺めているだけだが、すばらしい。序文でウィリアム・ブレイクとアーサー・マッケンが。

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