1.21.2021

[film] Ratcatcher (1999)

1月11日の晩、MUBIで見ました。

これもMUBIの“First Films First”のシリーズから、英国のLynne Ramsayさんの長編デビュー作。
邦題は『ボクと空と麦畑』(... ) アメリカ公開時には字幕が付いたらしいが、たしかに字幕がないと難しいスコットランドの。

Lynne Ramsayさんの“Morvern Callar” (2002) ~ “We Need to Talk About Kevin” (2011) ~ “You Were Never Really Here” (2017)はこちらに来てから見て、ご本人のトークも聞いて、Tilda Swintonさんと監督の対話も聞いて、とてもかっこいい素敵な人だし。

70年代の初めのグラスゴーのぼろぼろの公営住宅 - 長屋みたい – があって、周りにはドブ川みたいなどろどろの運河があって、回収屋のストライキでゴミ袋があちこちに積みあがって子供達が袋を叩くとネズミがいくらでも湧いてくるし、それらが焼かれた煙は明らかに有害で住民に健康被害をもたらす(とTVでは言っている)。ママは子供たちを押さえつけて髪を梳いて頭皮にくいこんだダニを取ってあげていたりする。

冒頭、レースのカーテンで自分の体をぐるぐる巻きにして回りながらミノムシーとかやっているRyan (Thomas McTaggart)は母親にひっぱたかれて(子供の頃やった。やられた)、外に遊びに出て行って川縁で遊んでいたJames (William Eadie)のところに行ってふたりでばじゃばじゃ遊んでいたら淵にはまって溺れて死んじゃって、主人公はJamesであることがわかる。Jamesは自分がRyanを殺してしまったのではないか、という後ろめたさを抱えたまま、それが映画の終わりまで彼を引っ張っていく。

ひょろっとしたJamesのぼろぼろの家ではいつも酔っ払って転がっている父と母と姉と妹がいて、いつもだいたいTV(サッカーか音楽番組)を見ている。ネズミ取りに小さなネズミがかかってかわいーとか遊んでいてもパパはそいつをそのままトイレに流しちゃったり(ネズミは海に行くんだって)、家賃の督促から隠れたり、取り壊しが決まっているアパートは新しい住宅に移転するための審査も始まっているのだが、審査の人が来たときもパパはぐでぐでであーあ、になったり。

家の外に出ても野蛮な世界で、ふつうに虐めっ子がいて虐められている子がいて、メガネをドブに落とされたMargaret Anne (Leanne Mullen)と仲良くなるのだが、彼女は日常的に不良のガキ共にいたぶられたりやられたりしていて、Jamesもどちらかというと虐められる方なのだが、ぼろい家と同じくどこかに行けるわけでもないし、なんとかサバイブしている日々がある。

そしてそんな生態系の最下層にはゴミのなかで暮らすネズミたちもいて、大人からは嫌われるし子供たちからは玩具にされて散々なのだが、ネズミを誕生日プレゼントとして貰ったりしているKenny (John Miller)が大切にしている白ネズミ – Snowball っていう名前 - の尻尾をいじめっ子たちは風船に結んで空に飛ばしたらSnowballは地球の外に、月に向かって飛んでいって、月にはウサギじゃなくてそんなネズミがいっぱいいる。 そうやって飛んでいくSnowballを羨ましそうに見るJames。

もういっこ、すばらしいシーンはバスで遠くに出かけたJamesが新築の住宅地に入ってその窓の向こうに広がる麦畑に向かって駆けだして黄金色の草の間を転げ回るところ。ここだけ別の映画のようで、でも家に帰るとTVでTom Jonesが”What's new, pussycat?” を歌っていたり。 そして映画の後半に再びその場所を訪れたJamesは..

どうすることもできない場所に家畜のように幽閉され、こちらに理解しようのない闇を抱えて蠢いているひとの傍には甘いファンタジーと、底の抜けた暴力が平気で隣り合っていて、それらはなんのギャップもなく彼らの内と外を繋いで結んでいる。夢も現実もたいして変わらないのだと。 というのがLynne Ramsayの映画を形作るひとつの星座で、水の底に沈んでいくJamesのイメージには、“You Were Never Really Here”のJoaquin Phoenixのそれが被さる。

でも最後にJamesが見せる笑顔だけはちょっと破格なかんじで、やられる。(彼女の後の作品には見られないかも)

音楽はTVから流れてくるTom JonesとかEddie Cochranとかの歌謡曲がいっぱいなのだが、Jamesが初めてひとりでバスに乗って遠くに行こうとするシーンで流れるNick Drakeの”Cello Song”がとってもよい。

JamesもRyanもKennyも、絵に描いたようなスコットランドの子供の佇まいで、Shirley Baker (1932 –2014)の写真にでてくる英国の子供達のそれに重なる。彼女の写真もこちらに来て出会った素敵なもののひとつ。


外は暴風雨で気圧がめちゃくちゃなので死にそうなのだが、午後からずっとInaugurationをつけて何を見てもじーんとしている。あれが出ていった、というだけで心の底からほっとするし、執務を開始した、と聞くだけで傷が回復に向かっているかんじがする。 あーよかったよかった。二度とあれの顔は見たくない声も聞きたくない。

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