1.13.2021

[film] 彼岸花 (1958)

5日、火曜日にBFI Playerで見ました。英語題は”Equinox Flower”。
里見弴の原作で小津の最初のカラー作品。アグファの赤っていいよねえ。

駅のホームで結婚式で降りてくる人達を見ながらあれこれ勝手なことをいう駅員たちがいる。
平山(佐分利信)が旧友の河合(中村伸郎)の娘の結婚式に出て、よい式だなあとしみじみしながらも、仲間の三上(笠智衆)は欠席していたので少し気になる。

平山の家も娘の節子(有馬稲子)の結婚が気になり始めた頃で、妻の清子(田中絹代)と娘ふたりと箱根に出かけて、その翌日に会社に現れた谷口(佐田啓二)から節子と結婚したいと言われてありえない、ってなったり、三上からは家を出てバーで働きながら男と同棲しているらしい娘の文子(久我美子)を見てきてくれないか(式を欠席したのはそのせい)と頼まれたり、馴染みの京都の旅館の女将 - 佐々木初(浪花千栄子)から娘・幸子(山本富士子)の縁談をどうしたものかと言われたり、幸子からはお母さんほんまに困ったもんで、と言われたり。

こんなふうにお話しは「竹はいらないね」とか「結婚が金だと思ったら真鍮だった」とか名言を散りばめつつ、いろんな立場からの「幸せな結婚」とはどういうものか? のまわりをぐるぐる回っていく。平山は節子によく考えてみろ(会社なんて行かなくていい)とか、困ったやつだ、とか散々お説教するのだがお困りを巻き起こしているのが自分だということには気付かないらしい。

とにかく平山は節子の結婚はぜったい認めない、結婚式にも出んぞ、親の心配をなんだと思っているんだ、って言い続けるばかりなので、どうしたものか。誰か叱ってやるやつはおらんのか。

そんな彼の横で絶妙のおしゃべりでひっかきまわす浪花千栄子とどっしり受けとめて揺るがない田中絹代のふたりがすばらしい。最後の対決の後、田中絹代が立ちあがってラジオのとこに寄って音楽に身を寄せて、ラジオを消せと言われて座るとことか素敵ったらない。

結果的には「浅はかなトリック」(英語字幕だと”set-up”)を仕掛けた山本富士子とその素をつくった浪花千栄子のおしゃべりが世界を救う。こうして積み木の世界の秩序は保たれるのだと思った。

もういっこ、平山の部下で谷口の友人の近藤(高橋貞二)が平山とかバーのママ(桜むつ子)に散々いじられるところもおもしろい。こういう半地下の「いつもの。ふつうの。国産の。安いの」世界もあるのだと。

あと、最後の家族のちゃぶ台のとこ、かかっているテーブルクロスとかその周りのセッティングがパーフェクトですばらしいの。そのまま絵になってしまいそうな。

彼岸花は、いつかの箱根で家族で楽しんだのを最後に結婚後の異界(彼岸)に旅立っていく女性と、親たちの策謀と思惑が渦を巻く此岸の間に咲くやつで、その間には駅のホームなんかがあるの。


秋日和 (1960) 


4日の午後、Criterion Channelで見ました。英語題は”Late Autumn”。これはもう何度も見ているので少しだけ。

原作は↑と同じ里見弴なのだが、『彼岸花』できっぱり結論がでたはずの「娘が幸せになれば親も幸せになるはず」仮説を改めて検証するために間宮(佐分利信)& 田口(中村伸郎)& 平山(北竜二)のトリオが召喚される。ねちっこい。何度でも蘇って再利用されるDCやMarvelの悪役みたいなかんじかも。

旧友の7回忌の集まりの後でこいつらがいつもの座敷で、かつて全員が討ち死にした未亡人の秋子(原節子)とその娘アヤ子(司葉子)をサカナにして、「いい、ありゃいいよ」とかやって、まずはアヤ子の結婚なのだが、それを達成するためには秋子さんもついでに、って自分たちの慰みにしようと画策する。

そんなおっさん共に立ち向かうのが秋子の会社の友人百合子(岡田茉莉子)なのだが、彼女は最終的におっさん達とお寿司屋(彼女の自宅)で仲良くなってしまう。ここがいつもなんか納得いかなくなるので、今回改めて見てみる。

おっさん共は「アヤちゃんを幸せに結婚させるためには叔母さんにも再婚して貰わなきゃならない」と強調して、では秋子に再婚の意思があるのか?というと百合子は「聞いたんです」「いけなかないわ、いいと思うわ」、ってなんか連中と手を結んでしまう。ここがさー。

これの前夜にアヤ子と喧嘩している百合子は秋子のところに寄って、秋子は困った娘ねえとか言いつつも自身の再婚については「そうかもしれないわねえ」→「あたしがいたら邪魔ね」→「幸せになれるのだったらそんなこと我慢しないと」と押してくる百合子に向かって語るのだが、ここになんか掛け違いがある気がして。 これが再婚の意思表明になるのか.. なあ?

これ、『彼岸花』の続編として、浪花千栄子と山本富士子の母娘の縁談話にしてしまえばよかったのに。 浪花千栄子の再婚相手として浮上するのはもちろん中村鴈治郎で、トリオは頭があがらないの。ぜったい抱腹絶倒のロマコメになったのにな。

とにかくこの作品の岡田茉莉子さんは最強で、そういえば彼女は昨日が誕生日だったのね(祝)。
昔々、2003年の小津生誕100年のイベントでコロンビア大学とFilm Society of Lincoln Centerの主催の蓮實重彦さんの講義があったとき、自分のすぐ後ろの席に座っていたのが岡田さんで少しびびった。この時の講義がとてもおもしろくてだんだん映画を見るようになっていったのよね。

その時の内容がこれ。
http://www.rouge.com.au/4/ozu_women.html

 

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。