1.23.2021

[film] Dear Comrades! (2020)

1月16日、土曜日の昼、Curzon Home Cinemaで見ました。 原題は“Дорогие товарищи!”- “Dorogie tovarishchi!”。

ロシアのAndrey Konchalovskiyの新作。 モノクロ・スタンダードで、ほぼ2時間。昨年のヴェネツィア映画祭でSpecial Jury Prizeを受賞している。

NYのFilm Forumで始まっていたのがこちらからは見れなくて泣いていたら英国でも早めに公開してくれた。政府にあっさりじわじわ殺されそうになっている今の季節、絶対に必見のやつ。

1962年6月2日にソヴィエト連邦の南部ノヴォチェルカッスクで起こったソヴィエト軍とKGBが起こした - Novocherkassk massacre - ノヴォチェルカッスク虐殺の3日間(6/1~6/3)をドラマ化したもの。

主人公のLyuda (Julia Vysotskaya)は共産党本部に勤める中年の市職員で、かつてはスターリンの軍に仕えていたガチの共産党員だったので、フルシチョフの修正主義に対してはあんなふうに緩くされて何を信じたらよいのか? って煮え切らないものがあって、自分も老いた父と10代の娘Svetka (Yuliya Burova)と暮らしながらだらだら不倫していたり、あれこれやけになっている。

工場のストライキに端を発した市民の抗議行動が食費の値上げに対する不満によって更に膨れ上がって市庁舎に向かって押し寄せてきた時、Lyudaを含む市の官僚は誰もどう対応していいか具体的な答えを持っていなくて、軍には弾薬を持たせていないはずだし、いいかげん嫌になったLyudaは「あんな連中は一掃してしまえばいい」って思わず言ってしまったりする。この辺はまだ喜劇。

ところが軍が弾薬を用意していることがわかり、なんの合図もなしに突然市民に向かって発砲を始めたので会議室の連中は愕然騒然として、何よりパニックになったのはSvetkaがデモに参加していることを知っているLyudaだった。勿論自分も退避しなければいけないのだが、その途中でばたばたと目の前で撃たれて死んでいく市民を見て恐怖に駆られる。 突然虐殺が始まるところは、主人公達の張りつめた緊張の糸が切れて雪崩のように起こるのではなく、外側の淡々とした均一な時間感覚と距離感で撮られているので余計に恐ろしい。虐殺とはそういうもの。

軍は遺体をすごいスピードで回収してどこかに運び去っていったので、KGB職員のViktor (Andrey Gusev)に助けてもらって病院とか遺体安置所を回って娘の行方を探していく。その過程で明らかになっていく国が市民に対してどんなひどいことをしたのか、その事実をどう封じ込めようとしているのかといった不可解さと不信、自分は体制側でもなんでもないのだ、という底抜け感。自分は何も見ませんでしたという誓約書にサインする時に怪しい動きをした看護婦は容赦なくどこかに運ばれていくし。

そんな状態で議場に登壇して“Dear Comrades!” - 親愛なる同志よ!で始まるスピーチを求められたLyudaはトイレに駆けこんで吐いてしまったり。

死体をトラックに積んで運んでいるのを見たというのを聞いた彼らは、その行先を知っている農夫を突きとめて埋めた現場に連れて行って貰う。そこはなんの目印もないただの原っぱでただ穴掘ってどさどさ束ねて埋めたって。靴下の先に穴が開いた若い女性の死体を見なかったか? と聞いたら見た.. というので。

歴史の闇 - 震撼する真実云々というやつで、この件も30年間公式には認められず、調査もされてこなくて、1992年になってようやく調査団が組織されている。この映画はその調査団を率いた人が脚本のコンサルタントとして入っているので真実に近いものだと思うが、事実として並べられているのはあっけないほどシンプルで、軍が文句を言う市民を虐殺して処理して箝口令をしいてアスファルトをきれいに掃除した。なんの策謀も思惑もなさそうな、ただそれだけ。「責任者」はいなくているのは「同志」のみ。怖いったらない。

おそらくこれを見た多くのひとが1月6日にワシントンDCで起こったこと(あれはテロだからね、念のため)を想起するかもしれないし、これが共産党のやり方なんだひどい、とかわーわー思うかも知れないが、そういうわかりやすい短絡がいかに危険で間違っているかようく注意しながら見て考えてほしい。でも改竄したいひとも陰謀論やりたいひとも自分たちの快楽でやっているのだからどうしようもないわあれ。

あとさー、ストをするくらい賃金下げられて食費も上げられたらふつうあんなふうに怒って押しかけるよね、国に向かって。そこで、だからやっぱり国に向かってなんか言うのはいけないことなんだよ、ねえ同志! になってしまうのが一番こわい(いまのどっかの国ね)。国はそこを狙ってあんなことをやってくるのだろうし。


Comrades、といえば、こないだまでNetflixで「愛の不時着」っていうのを見ていた。あまりに長いしみんな泣いてばっかりなので死にそうだったが、やたら冗長なスクリューボール・コメディだと思って楽しんだ。でもこれやるなら舞台を70年代の東西ドイツにして、エーベルバッハ少佐とその周辺でやってほしかったなあ..(この漫画を読んでいたのは80年代までなので、てきとーに言っています)

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