1.24.2021

[film] Not Wanted (1949)

1月12日、火曜日の晩、アメリカのMUBIで見ました。

MUBIではElmer Clifton, Ida Lupinoの作品とあるが、Ida Lupinoの名前は共同脚本と共同プロデュースにクレジットされていて、監督はElmer Cliftonのみ。実際にはElmer Cliftonが心臓疾患で初期の段階で降りて、実質はほぼIda Lupinoが監督した、ということらしい。

当初のタイトルは”Unwed Mother”(未婚の母)だったが検閲が入ってこれになったそう。
冒頭の字幕には「これは毎年100,000件も語られているお話です。御協力頂いた国中の病院や機関のみなさんに深く感謝します」とでる。

冒頭、目が虚ろで憔悴した顔のSally (Sally Forrest)がふらふらと坂を登ってきて、店の外の乳母車にいた子を抱きあげてそのまま連れていこうとしたところを誘拐未遂で捕まって、茫然自失状態のまま留置場に入って「どうしてこんなところに..」って回想シーンになる。

19歳のSallyはレストランバーでバイトしていて、両親に頼まれたお使いを忘れて、母親 (Dorothy Adams)から、あんたもちゃんとした男を捕まえないと、あたしみたいに一生台所に繋がれた奴隷になっちゃうから気をつけるんだよ、でもそんな男はどこに行ったら見つかるんだろうねえ、って嫌味を言われたりしている。この母親の小言に全てが集約されているかも。

で、一緒に食事にきた友達の紹介で自分のバイト先のバーでピアノを弾いているSteve (Leo Penn - Sean PennとMichael Pennのパパね)と出会って、彼のピアノの勢いと一匹狼の無頼風にぽーっとなる。ベレー帽を被って女学生みたいなSallyとピアノを挟んで向かい合うふたりの絵が素敵で、彼のライブの後にダンスをしたりピアノに並んで座るようになる。でも彼は次の活動場所であるCapital Cityに行くから、と連絡先だけ残していなくなり、Sallyは無免許のスピード違反でつかまったり不安定になって、そのまま荷造りして家を出てしまう。

Capital Cityに向かう夜行バスでは隣の席にいたDrew (Keefe Brasselle)が声をかけてきて、よい人っぽい彼は、安い下宿屋を紹介してくれたり、自分の勤めているガソリンスタンドにSallyを雇ってくれたり、最後までとってもよい人なのだが、すぐにでもSteveと会いたくてたまらないSallyは彼の部屋に行ったら彼はあまり嬉しそうではなくて、電話番号を伝えても電話してくれないし、こちらからかけても出てこないし。

他方でDrewとのデートは楽しいのだがやっぱり思いきれなくて、Steveのところに行ってみるといろいろ行き詰まっていて不機嫌そうな彼はこれから南米に発つから、という。あたしのことなんてどうでもよかったのね、って泣くSallyに、自分は結婚なんてできる男ではないのだと。こいつはもうだめだ。

で、Drewとの何度目かのデートでメリーゴーラウンドで遊んで、彼からプロポーズされて夢みたい.. ってメリーゴーラウンドのぐるぐるを見ていたら気分が悪くなって倒れて、医者に来てもらうと妊娠しているよって。誰にも言わないでほしいと医者には伝えて、誰にも告げずに荷物をまとめて次の町に移ってウェイトレスのバイトを始めるのだが誰にも相談できないので教会に行ったらそこで倒れて、気がついたら病院でカウンセリングを受けて、そこにはSallyと同じような境遇の女性が沢山いた。

Sallyを諦めきれないDrewは、彼女のいる病院をつきとめて訊ねてくるのだが、そこが未婚の母たちの施設であることを知ってショックを受けて帰っていって、Sallyはそこで共同生活をしながら出産して、でも子供は育てられないので養子にだして、そこを出るとクリーニング工場に勤め始めるものの、手放した子供のことが頭から離れなくて..  → 冒頭のシーン → 留置場。
 
お話もテーマもちっとも古くなくて、70年前から無責任な男に捨てられて相談できる人も行く場所もなくなって苦しむ女性は毎年100,000件もあったのだと。 “Not Wanted”の主語は誰だったのか、それはどう変わっていったのか。

母親がSallyに”respectable man”を見つけろ、と説教する、そのrespectable manのありようも戦後アメリカが豊かになっていくにつれて変わっていって、Steveのような男はビート・ジェネレーションの先駆けのようにすでに出て来ていたのだと思うが、そういった社会背景のようなところまで押さえながら、だからと言って女性が苦しんでいい理由にはならんだろ、とSallyの虚ろな眼差しを通して訴える。

これがIda Lupinoの実質監督デビュー作なのだとしたら、やっぱりおそるべし。

70年前と変わっていない、という件、日本という国だとおそらく100年くらい前から変わっていないと思うのだが、あの国の場合、立場とか機会以前の(男女も年齢も人種も)平等原理原則とか人権みたいなところからぜんぜんだよね。ぜんぜんていうのはそれを決めたり考えたりするところが男ばかりなので幼稚園からやり直せ、みたいになるの。前例踏襲の思考停止状態でなんでだめなのかわかんないバカばっかしで、そんなバカをみんなして持ちあげてるんだもの。ほぼ犯罪だわあんなの。

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