1.09.2021

[film] 秋刀魚の味 (1962)

1月2日の昼にBFI Playerで見ました。あまりにお正月ぽくないのをなんとかしたいかも、っていうのと、暮れに『流れる』をみた流れで。で、見始めたらおもしろくて小津を後ろから順番に見ていっている。BFIとかCriterionに入っていないのは見れないのだが、見れるところまで。

英語題は”An Autumn Afternoon”。Google翻訳にかけると”Autumn sword fish taste”。DeepLだと”taste of saury”になる。”Autumn Sword Fish”はすごいな。

会社勤めをしてて仕事以外にすることがなくなったオヤジ共が自分たちの慰みで娘たちの縁談に首を突っこんで痛いめにあったりしょんぼりしたりするコメディシリーズ。

大企業の重役の平山周平(笠智衆)は長女の路子(岩下志麻)と次男の和夫(三上真一郎)と三人で暮らしていて、長男の幸一(佐田啓二)は秋子(岡田茉莉子)と結婚して団地に暮らしている。周平が最近オフィスに来ていない女性社員の消息を聞くと結婚しました、と言われて、それを教えてくれた女性に君もそろそろだねえ、とか言う。そのすぐ後に平山の友人の河合(中村伸郎)が訪ねてきて路子さんの縁談はそろそろじゃないか、と言うと平山はいやあれはまだ子供だから – いやいやそんなことはないぞ、という会話があり、ところで友人の堀江(北竜二)は若い細君をもらってよさそうだぞおくすりでもやっているのかな、とか。

この冒頭の10分くらいのハラスメント満載の会話と基本設定だけで何が起こるのかだいたい分かってしまうしまうのがすごい。これに続く平山と河合と堀江の3人の飲み会での会話では、すっかり勢いを失ってしまった自分たちの恩師ひょうたん(東野英治郎)の話と若い妻を貰って元気がいい堀江の話に及んで、堀江は平山と河合にいいもんだぞ、お前たちもどうだ? とかいう。酒場の座敷で「まじめなはなし、ここだけのはなし」とか言いつつじとじとねちねち、いつのまにか話が進んで筋書きが練られていく美しいオヤジというかじじいの国にっぽん。この会食文化はいまだに..

この「世界」の強烈な臭みを味わったのは『秋日和』(1960)が先だったかこっちが先だったかそれがいつだったのかの記憶は定かではないのだが、最初に見たときもこれはたまんねえな、って思った。で、(不愉快だから)二度と見たくないわ、になるかと思ったのだがそうはならずに、見れば見るほどおもしろくてたまんないものになる不思議。

とにかく、若い女性は結婚しなければいけない、結婚しないで独りでいると不幸になる、というのが絶対命題としてあって、この強迫観念に取りつかれた哀れな男親たちと、自分の結婚は自分で決めるしあたしがいなくなったら困るのはお父さんじゃないの、っていう娘たちが「困るんです」「いいんです」って抵抗してく様と、立場と局面によって小爆発を繰り返す彼女たちの不機嫌がじじい共の共謀とか懐柔、更には時間の経過によっていかに回収され、結果的にそのシステムを維持しようとするのか/維持されてしまうのか、が醍醐味なの。いや、維持されるところは(認めたくないけど)しょうもないし幸せになるならそれでいいや、なのだが、女性の不機嫌がどう表現されるのか - 着物や手ぬぐいをばさって放り投げるとか -  が個人的には興味深い。男たちが決して見ようとしないところで女性たちはこんなふうに戦ってきたのだし、あのがちがちにおやじの時代だった昭和でもこんなふうに戦ってすたすた歩いていったのだよ、と(ポジティブに考える)。

それか、ここにあるのは溝口や成瀬以上に禍々しく婦女子を縛りにくる伝統的なにっぽんの家族のありようを示していて、これが美しいにっぽんの家族、みたいに朗々と紹介されてしまった(というか嬉々として紹介してしまった。今もそれやってるけど)のがそもそもの間違いなのではないか。

で、そんな観点にたった時にローアングルを含めて画面の構成(縦横、奥行き)とか団地の廊下とかオフィスの廊下とか、ぺなぺなの壁に煙突(≠要塞)とか、なんでみんなトイレに立つとあんなふうに背中を見せて去るのかとか、いろいろものすごくおもしろくて、会話の切り返しのタイミングとか強弱とか、同じくお酒を飲むシーンが多いホン・サンスのと比べるとこっちの方が断然すごい。

タイトルに「味」が入っている、ということでやはり『お茶漬けの味』とも比べてしまう。お茶漬けは主人公の佐分利信が簡単に作れるからこれでいいんだ、っていう妻に対するメッセージとして機能していたのだが、秋刀魚は...  劇中には出てこなくて(鱧は出てくる)、ある季節になると人によってはたまんなくなるやつ、かなあ? とにかく焼いて煙を出せ、っていうメッセージかなあ? タイトルに季節が入っているシリーズにもなんか共通項はあるのだと思う。(個別に流れて消える時間 – 味と共通に流れていく時間- 季節)


今日はDavid Bowieの誕生日なので、BBC Fourで過去のいろんな映像をお蔵出ししている。見たことないのだらけで目が離せない。なんて素敵なひとなのかしら。

英国は1日の死亡者数が4月の記録を更新してしまった。ロンドン市長が緊急メッセージを出して、この数は30人に1人だって。そうやって見ればすごい数かも。

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