1.12.2021

[film] Between the Lines (1977)

1月2日の晩、Criterion Channelで見ました。

監督のJoan Micklin Silverさんが暮れに亡くなって、その追悼なのかCriterionでピックアップされていた。彼女の”Crossing Delancey” (1988)は2018年にBFIで見てとても好きだったので見る。
NYでは2019年の2月にリストア版がQuad Cinemaでリバイバルされているのね。

ボストンにあるBack Bay Mainlineという架空のAlternative Newspaperの編集部が舞台。Alternative Newspaperっていうのは地方紙ともちょっと違う、メジャーなメディアが取りあげないような地元の小さなネタやスキャンダルとかを腰を据えて取りあげて真相に迫っていくやつで、NYにはかつてVillage Voiceがあった。大抵は無料で配られていたり自分で拾ったり。日本にはある/あったのかしら?

脚本を書いたFred Barronにはそういうペーパーの編集部にいた経験があり、Joan Micklin SilverさんもVillage Voice(祝復刊)にいたことがあるそう。

Back Bay Mainlineのオフィスはいろんなライターがわいわい詰まった寄り合いで、次の号の方針ややることを決めていく。Michael (Stephen Collins)やHarry (John Heard)といった(若いけど)実績を積んだベテランもいれば、なにかを書いてみたいDavid (Bruno Kirby)のような小僧もいれば、音楽担当のちんぴらMax (Jeff Goldblum – ぎんぎん)がいれば、通りで売り子をしているThe Hawker (Michael J. Pollard)もいれば、フォトグラファーのAbbie (Lindsay Crouse)はHarryとLaura (Gwen Welles)はMichaelとつき合っていたり。広告担当のStanley (Lewis J. Stadlen)はしょうもない広告取ってくるんじゃねえ、ってみんなにしばかれているのだが、会社としてのお財布は厳しくて儲かってなくて、大手メディアの傘下に入る(買われる)話がずっとちらちらしていて、それがまたスタッフのぎすぎすを生んでいたり。

個々のエピソードがどう、というよりも70年代のRobert Altmanの群像劇のスタイルで人と人の群れたり散ったりをまるごと同時同録で追っていってどたばた慌しく膨らんだ状態でさらりと終わる。オフィスのドラマとしてはふつうに(ふつうじゃまずいが)殴り合い怒鳴り合いがあって、タイプライターは叩き落とされ、コーヒーが撒き散らされ、コンプラ観点では相当にザルで鷹揚で問題ありありのふうで、ああいう方が毎日なにかが起こって楽しいだろうな、少なくとも鬱になったりするかんじはなさそうな。

主な舞台はオフィスの他にHarryのアパートとか、みんなで飲み会をするバー - Southside Johnny and the Asbury Jukesがライブをしている – とか、これらが「職場」もONもOFFもない均質な温度感でダンゴになって転がっていく、これって警察とか消防署とかやくざのいる酒場とか、そういうノリのドラマのようで、次から次へといろんなことが流れていくので少なくとも飽きることはない。このノンストップの一族郎党の祭りをデジタルの時代により緻密に濃厚にやっているのがWes Andersonなのかもしれない、とか。

これは60年代末を経たヒッピー文化のひとつの終わり、ではあるのかもしれない。みんなで突撃する前に行間を読んで動こう、という - ただそこに苦さや敗北感はあまりなくて、それぞれになんとかやっていきますわ、に向かおうとしている。 そこでそんなんじゃだめだろなめんな、になったのがパンク。 青春期の音楽ジャーナリズムを描いた”Almost Famous” (2000)は、これより少し前の時代、だろうか。

あと、こういうAlternative Paperのクオリティはともかく、こういうスタイルでみんなでぼかすかやりあいながら作られていく記事だと、今みたいなフェイクとか陰謀論のような件はそんなに起こらない気がする。 誰かがそんな記事をあげようもんならみんなで寄ってたかってそんな恥ずかしいのやめろ、になったのではないか。 もちろんこれはネットができるずっと前の話で(でも、オウムもネット前だ)、今のってネットに向かう孤独なひとりひとりが自分さえ気持ちよくなれればいいや、で短冊を書きなぐったり愛でたりしているだけのまったく別次元の話なのだろうけど。
なにを言いたいのかというと、だからVillage Voiceの復活は意味があるのだ、と。

いろんな人が登場してそれぞれの立場から勝手なことを言って向こうに消えていくこういう映画って、お正月向きだったかも。小津のもそうだったけど。

Joan Micklin Silverさんの他の作品も見たい。こういう追悼の時、BFIとか映画館の方が早いんだよな。


だいじょうぶだ、今年はまだあと350日以上ある。 今年が始まってまだ2週間経ってない、って気づくとしにそうになるけど。

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