12.21.2020

[film] Small Axe: Alex Wheatle (2020)

13日、日曜日の晩、BBCのiPlayerで見ました。

Steve McQueenによるTVシリーズ”Small Axe”の4作め。 Alex Wheatle (1963-) は実在する英国のライター、小説家で、この”Small Axe”シリーズ全体のコンサルタントのような形でライターズ・ルームにずっといて、そのうち何で彼の話をテーマにしないんだ? すべきだろ? になってこのエピソードができた、と(脚本は別の人が書いている)。

Alex (Sheyi Cole)が刑務所に収監されるところが冒頭で、その部屋には年長のでっかいラスタファリアンのSimeon (Robbie Gee)がいて、ハンガーストライキをしているので胃腸の調子がよくないという彼はいつも便座に座ってでっかい音でおならばかりしていて部屋中すごい臭いで、Alexは空を見あげるのだが、その状態で回想されていく彼の幼少期からここまで。

幼少期の彼は孤児院にいておねしょばかりしていて、その後も里親を転々として、親からも施設からも見放されて散々に虐待されて、泣くことも叫ぶことも感情を爆発させることも許されず、おねしょしたシーツを口に突っこまれ、拘束衣でぐるぐる巻きにされ、ほぼ放心状態のまま死体のように地面に放置されている、そうやって失われた子供時代のこと。

学校を出てBrixton界隈で共同生活を始めて、Dennis (Jonathan Jules)と出会って友達になり、彼に髪型から服装から細かに指導を受けて少しづつ自分のスタイルとかアイデンティティを見つけていく。Dennisに紹介されてヤク(はっぱ)の売人になり、そこで得たお金でBrixtonのレゲエのレコード屋(ああタイムスリップしたい)で音楽を漁るようになり、サウンドシステムを手掛けて、自分でもトラックを作ったりして -  この辺は、”Babylon” (1980)や”Small Axe: Lovers Rock”でも描かれていたあの時代の若者たちに起こった出来事が、そこに深く関わったひとりの若者の成長にとってどういう経験だったのかを示す。

やがて彼の音楽やダンスホールに対する熱と頻度を増してくる警察の横暴に対する不満がコミュニティ全体に広がって、81年のBrixton uprisingというプロテスト/暴動になだれこんで、彼は投獄されてまたひとり(& Simeon)になる。

で、その状態に置かれても拗ねてグチのようなことしか呟けないAlexに、Simeonは自分の本棚の本を読むように勧めて、「おまえのストーリーはなんだ?」と頻繁に問いかける。 自分はどこから来た何者なのか、なんでここにいるのか、なにをすべきなのか、どれはどうしてなのか、それを考えて伝えるための道具はなんなのか、などなど。 これらについて書いてみないか、と。

ここにはTVや新聞や雑誌では決して明らかにされてこなかったブラック・ブリテンの、移民のストーリーがあって、それは自分のこと、自分が辿ってきた道のことで、それは自分だけではなく、家族のこと、友人たちのことでもある。それが自分にできることであるのなら、はっきりと語られるべきなのではないかと。このように読んで書くことを通してAlex WheatleはAlex Wheatleになった。

ここまでの”Small Axe” 3作と比べると、エピソード(出来事)としてやや弱く見えるのは、実際のイベントや体験を直接描くというよりも、こんなふうにその最中にいる個人がどうやってそれを書いて伝えるのか、なぜそれをする必要があるのか、という点に的を絞って語ろうとしているから。それがなければ、このシリーズは単なる60-80年代の英国で起こった人種差別に根ざしたいろんな事件をドラマ化したもの、で終わっていただろうし、それはそのままSteve McQueenがこのシリーズを撮った動機にも繋がっている  -  ということで次に続く。

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