12.13.2020

[film] Ma Rainey’s Black Bottom (2020)

6日、日曜日の昼間、BFI Southbankで見ました。これは新作映画で、もうじきNetflixでもかかる。

原作はAugust Wilsonの1982年の同名戯曲で、Denzel Washingtonがプロデュースしていて - DenzelとViola Davisの”Fences” (2013)からのシリーズ - Chadwick Bosemanはこれが遺作となった。
創作戯曲だが、主人公のMa Rainey = Gertrude "Ma" Rainey (1886–1939)はジョージアに実在したブルースシンガーで、タイトルになっている曲は1927年に録音されたものが残っている。

1920年代のシカゴ、レコーディングスタジオにバンドマン5人が集まってくる。スタジオのオーナーもエンジニアも白人で、到着したバンドは穴倉のような地下の控え室に入れられて、荷を解いてリハーサルしながらご主人様であるMa Rainey (Viola Davis) の到着を待つ。 映画はそうやって始まったレコーディングの1日を追っていく。

バンドメンバーは年齢的には枯れて落ち着いた人が多く、Ma Raineyのバッキングも慣れているようなのだが、トランペットのLevee (Chadwick Boseman)だけは若くて新品の靴を自慢しながら俺は才能たっぷりなんだって彼女のレパートリー - 特にリードトラックの“Ma Rainey’s Black Bottom” - をもっと踊れるふうに自分がアレンジしたバージョンについて語り、スタジオ側の了解も取りつけるのだが、他のメンバーはそんなこと言ったって決めるのはMaだからな、って言ってる。

でっぷりしたボディで重そうにホテルから出てきたMaは、甥のSylvester (Dusan Brown)とお付きの女性Dussie Mae (Taylour Paige)を従えてようやくスタジオにやってくるのだが、その手前で車をぶつけて揉め事になったり、始まる前にはコーラが欲しい、ってゴネたり、安定不動の傲慢な女王さまで、スタジオ側の白人が何を言おうが屁とも思っていない - いやなら録るのやめて帰るよ、ってそれだけ。 その調子で曲のイントロのところで吃音症のSylvesterになんとしても喋らせるんだ、って聞かなくて、そのリテイクを数十回繰り返して - 当時はマシンからマスターレコード盤に直接刻むやり方なので何枚も無駄になって - スタジオ側は頭を抱えたり、それと同様にLeveeのバージョンも彼女は即座に却下して、それを受けたLeveeは…

Maがそういう態度のまま、何を言われても請われても動じないのは、彼女がそうやって生き残って来た、どれだけ汚く顰蹙をかったとしてもそれが唯一の生き残る方法であることを学んできたからで、それがわかってくると痛快だったりもするのだが、それは若いLeveeについても(古参のバンドメンバーについても)同様で、彼も彼なりに人種差別で苦しんできて、アレンジを学んでいつか自分のバンドでデビューすることを夢みて、ぴかぴかの新しい靴を買って、リハの合間にDussieにちょっかいを出して周囲をかき乱す - これもまた彼なりの戦い方で、それが自分のバージョンが退けられたことをきっかけに..

地上階にあるスタジオと地下のリハーサル階をいったりきたりする場面構成も - いかにも舞台劇のようでおもしろいのだが、ここの見ものはなんと言ってもViola DavisとChadwick Bosemanのいろんな次元での対立と激突で、マイクの前で仁王立ちのViola Davisのまわりをトランペットを抱えて落ち着きなく動きまわって喋りまくるChadwick Bosemanを見ていると、ほんとになんて惜しい人を.. しか出てこないわ。

“Ma Rainy’s Black Bottom”という歌は、Black Bottom Stompっていうみんな夢中になっている最新の踊りを見てきなよって言われて、気持ちよさそうだからやってみたいな、ってやってみたら上手にできたのであたしのもかっこいいから見てみてよ - でも粗っぽくなりすぎたらやばいな 〜 歌詞だけだとこんなかんじなのだが、”Bottom”は「お尻」なので2重3重の猥雑な意味もある。 こういう歌詞をもつこの歌を録音する現場で、なぜMaはSylvesterに喋らせることを譲らなかったのか、なぜLeveeは突然あんなこと(見ていた周囲の数名があっ、て声をだした)をしてしまったのか、とか。

音楽はBranford Marsalisで、バンドの音については分厚さもキレもうねりも申し分なくかっこいいのだが、これが当時鳴っていた音なのかというと.. どうなのかしら。隅々まできちんと再現する必要はないと思うけど、20年代のブルースって、ライブで聞くとあんなふうだったのかなあ?


ああ、John le Carré が…

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。