12.06.2020

[film] La fille inconnue (2016)

11月28日、土曜日の晩にMUBIで見ました。
作・監督共Jean-Pierre Dardenne & Luc Dardenneで、英語題は”The Unknown Girl”。 邦題は『午後8時の訪問者』。

Dr. Jenny Davin (Adèle Haenel) は労働者階級が多く暮らすエリアの診療所でがんばる優秀な医者で、より規模の大きい医院への異動が決まったばかりで、インターンのJulien (Olivier Bonnaud)と遅くまで残っていると午後8時過ぎにドアのブザーが鳴る。やる気を失っているかに見えるJulienへの教育もあるので、勤務時間を過ぎた場合は出てはいけない - どこかで止めないとなし崩しになっていくから - と教えてそれきりになるのだが、翌日警察が来て、ドアのカメラの映像を確認させてほしいという。昨晩この近辺で女性が殺されたので、カメラに被害者が映っている可能性があるから、と。 確認してみるとそれは間違いなく被害者で、なにかに追われて怯えている様子の若い女性がいて、Jennyはあの時自分がドアを開けて彼女を中に入れていたら彼女は殺されずに済んだのではないか、という思いに取り憑かれていく。

被害者の女性が身元も、名前すらも不明のまま葬られていることを知った彼女は、彼女への償いなのか救えなかったことへの罪の意識なのか - そこに医師としての職業意識もあったのか、自分の患者周辺を中心にたったひとりで聞き込み調査を始めていく。といっても女医としての知見を活かした特殊な推理をするわけではなく、手当たり次第に被害者の写真を見せてこの娘を知っているか、と聞き回っていくだけ。 やがて具合の悪い青年の往診をした際、写真を見せたら脈が早まったのであなた何か知っているでしょ? と問い詰めたり、それを通して改めて見えてくる近辺地域の貧困問題があり、少し近づいたと思ったら警察側からいまは麻薬捜査の重大な局面にあるから邪魔しないでほしい、と言われたり、先の青年の両親からはもう治療の担当から外れてほしい、と言われたり。

あともういっこ、最初の方で描かれるJennyとインターンのJulienとの話しもある。医者になるのを諦めようとしているのJulienとJennyは衝突するのだが、その件もJennyはなんとかしないと、ってとにかく彼と話をして説得しようとする。

事件の謎を追う犯罪推理ドラマに力点を置くのか、正義感の強い女医の不屈の行動を描きたかったのか、その辺がややぼやけてしまったのは残念かも。 おそらく『サンドラの週末』(2014)のMarion Cotillardのような、ひとりで切り開いていく女性の姿を描きたかったのだろうし、ここでのAdèle Haenelは十分にそれに応える強い演技をしていると思うのだが、やっぱりこれは警察の仕事だ、とどこかで彼女は気づくべきだったと思うし、その境界を越えて壊してしまうほどの狂った/狂っていく熱を感じること - 見る側が望んでいるのはそういうの - はできないままで。

ただ他方で、Dardenne兄弟がここ数作でずっと描こうとしてきた地域とかコミュニティ - 職場でも家族でも - の没落、というか、なるようにならずに機能不全を起こして端っこの人々が遺棄されてどうしようもなくなっている状態は、彼女の捜査を通してとてもよく見えてくる。そういう状態に対する優しく暖かい目線 - この状態を乗り越えるにはどうすべきなのか、問題提起のようなところも含めて - は一貫している。

日本でもようやく公開されてよかったね、の”Portrait of a Lady on Fire” (2019) - 『燃ゆる女の肖像』のAdèle Haenelさんが、あの映画と同じ青系の服を着たりしているのではっとするのだが、どちらも芯が強くて屈しない負けないキャラクターで、その熱のありようは果たしてこの作品の周囲を忘れて捜査に没入する女性の像にきちんとはまっているかどうか - 両方の作品を見て考えてみるのもよいかも。 もちろん、彼女がいま世界いちかっこいい女優であることは言うまでもないのだが。


今日からTVで”Emma.” (2020)のリピートが始まったよ。”The Queen's Gambit”の彼女と”The Crown”の彼が共演していて、いま一番視聴率を取れること間違いなし、本屋さんだって潤うに決まっているのに、なーんでにっぽんではやんないの?  なんか圧力でもあるの?

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