8.11.2020

[film] Still Bill (2009)

 6日、木曜日の晩、Metrographで見ました。リリースから10周年の記念と今年3月に亡くなったBill Withersへの追悼も兼ねた上映。撮影当時70歳だったBill Withersのドキュメンタリー。

80年代を最後に新譜をリリースしていない彼の近況をインタビューを通して伝えるのと、過去の音楽番組のフッテージから彼の足跡を辿るのと。 引退したミュージシャンのドキュメンタリーとしては月並みなアプローチなのだが、彼と彼の音楽への敬意に溢れたとてもよい作品だと思った。

バージニアの炭鉱夫の家に生まれ、17歳で海軍に入って除隊後は会社勤め – Boeing747のトイレの監視カメラのことならだいたいわかるって – をしながら、71年に"Ain't No Sunshine"でデビューしたらヒットした。でも70年になるまで自分のギターを持っていなかったとか、自分が音楽家としてやっていけるとは思っていなかったので暫く仕事は続けていた、とか。

自分はBill Withersのあまりよい聴き手ではなかった。アメリカでは彼の歌はほんとうにみんなの歌で、どこにいっても流れていたし聞こえてきたし、彼のようなのを聴くのなら、音楽としてかっこいいGilbert Scott-Heronとか、より声のでっかいBobby Womackとか、より艶っぽいThe Isley Brothersとか、他に聴くのはいっぱいあると思われた。この映画でもわかるように子供の頃に聴いた音楽に衝撃を受けて、情熱的にデーモニッシュに音楽に没入して圧倒的な世界を創りだしたアーティストというかんじはない。故郷を訪ねて昔の友人と会う場面でもほんとうに普通に思い出に浸るそこらのおじさんと変わらない。

ごく当たり前の陳腐な言い方になってしまうが、だからこそ”Still Bill” - 彼の72年にリリースされたアルバムのタイトルでもある – なのだと思うし、かつてのバンド仲間とのインタビューでも彼がやめると言ったらからやめた、それだけのことで始めるといったらたぶん始めるだろう、くらいのノリで、そういう位置から彼の曲を聞いて、この映画の彼の笑顔を見るとだから彼の音楽はこんなにもいろんなところでいろんな人に聴かれてきたのだな、って。

後半、吃音症 - 彼自身もそうだった - の子供達の音楽に触れて涙を流して、自分でスパニッシュの音楽家や自分の娘と少しづつデスクトップで音楽を作り始めるところ、2008年のBrooklynのProspect ParkのCelebrate Brooklyn! - 夏の野外音楽祭 – のBill Withers TributeでCornell Dupree(彼ももういない)のソロに入って一緒に歌いだすところもなんのジャンプも決断のドラマもないように、淡々と始められる。自分がやりたいと思ったからやる – 蕎麦打ち職人とかパン職人みたいだけど、そういう揺るがない強さ(自信とはちょっとちがう)、決して彼方に飛んでいかないあの落ち着いた声がこの人を動かしてきた。

Bill Withersやっぱりいいなー、って思ったのは、映画”The Secret Life of Pets” (2016)のエンドロールで流れる"Lovely Day" (1977)で、あれ今でもTVでやっていると見て、じーんて泣きそうになるの。歳とったから、っていう言い訳みたいのも既にどうでもよくなってきた今日この頃。

あと、これの前日の”Nothing But a Man” (1964) から続けて見ると、アメリカの労働者階級にとっての家とか家族がどれだけ切実なものかがわかる気がした。日本のそれと比べてどうとか、そういうのは(比較してどうなる、も含めて)わからないけど、家族がある/いる、ということの意味とか。 ”Nothing But a Man”のDuffとJosieが70年代の夫婦だったらきっとBillの音楽を聴いていたはず。

ロックの世界からのコメントはJim Jamesさん(とても好きそう)と枯れ枯れのStingさんが。
Billが亡くなったときの追悼コメント、Edwyn CollinsとLloyd Coleのやりとりが印象深かったねえ。

 
まだ熱波の日々は続いていて、この熱波に名前を付けようとか言ってる。名前なんてどうでもいいから地球温暖化対策をしよう。 スーパーのアイスキャンディー売り場は空だし、アイスクリーム屋は長蛇の列だし、ロンドンのみんな弱すぎ。 かき氷たべたいよう。

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