8.19.2020

[film] Babyteeth (2019)

 こっちから先に書く。16日、日曜日の昼間、Picturehouse Central – 映画館 – で見ました。
ここのスクリーン2って、結構でっかいのだが、この回にいたのは5人くらい。前方にはだーれもいないのでめちゃくちゃだらしない恰好でみて、だらしなく笑って泣いた。

監督Shannon Murphyさんにとっては長編デビュー作となるオーストラリア映画。舞台劇用の戯曲だったものを作者Rita Kalnejaisさんがそのまま映画用に書き直している。本編が始まる直前に Shannon Murphyさんのビデオメッセージが流れて、子供みたいな人だな、って思った。ものすごく笑って泣いて、やられたかんじ。すばらしいったら。

高校生のMilla (Eliza Scanlen)が駅のプラットフォームで、そのまま飛び降りちゃうかのような思いつめた顔で立っていて、電車が入ってきたまさにその時、Moses (Toby Wallace)がばーんて立ちはだかって、というふたりの出会いからしてまるで少女漫画みたいで、しかもMillaが鼻血たらしたのをMosesがTシャツ脱いで拭ってあげたりする。バイオリンケースを抱えたMillaに対して全身タトゥーだらけでずっと風呂にも入っていなさそうでどうみても堅気じゃない歳もずっと上の20代のMoses、ここから容易に想像できる身分境遇の段差を超えた難病 – 純愛モノの定型とは随分違っていて、その枠を突き破って転がっていく様が痛快なの。

MIllaは癌で化学療法をやっているから髪の毛がないのでウィッグ - 色が変わっていく - をしてて、彼女のパパ - Henry (Ben Mendelsohn)は精神科医で、ママ - Anna (Essie Davis)は元クラシックのピアニスト(今は弾けなくなっている)で、お家もすごく立派で、そこにMosesに惚れちゃったMillaが彼をそのまま連れてきて、Mosesは食べ物とかすげえななんでもあるし、って大喜びなのだが、ふたりを見たAnnaとHenryは完全に引き攣ってて、でも娘が明るく楽しそうにしているので我慢するか、になる。 両親だってそれぞれ悩みを抱えててAnnaは不眠症で夜中に彷徨っているし、Henryは医師だから自分でドラッグ処方してやってるし、互いに対していいかげんにしろ、っていう思いを抱きつつどんより静かに絶望している。でもいまはMillaのケアが第一だから抑えてきて、それがMosesの闖入(こいつ、夜中に家に忍びこんで冷蔵庫の食べ物を漁ったりする)と初恋に燃えあがってしまったMillaの挙動で更にとっちらかって全員が空を見あげてしまう。

ふたりで町に出かけて夜遊びして、はしゃぎすぎて吐いちゃったり小競り合いしてどつきあってむくれたり、それらミクロのごたごたが紙芝居のように展開していき(サブタイトルが出るの)、そのそれぞれの場面で両親が直視して死にたくなる地獄とMIllaとMosesが見いだす天国の対照と交錯がすばらしくて、両親は大切なMillaを連れまわすMosesを殺したいと思うけど、そういうことを思う両親を殺したくなるMillaと、そういうことを思うMillaに最大の愛を注ぐ両親と、彼女を周回遅れで愛してしまったMosesと、それらの結ぼれが調子外れにからからと回っていって止まらない。

そして、そういうからから糸車に絡みとられた優しい人たち - 特にMillaが、Mosesという愛を発見する。Millaの難病が、その難病ゆえに純愛を呼び寄せたり研ぎ澄ましたりしてふたりの像を高みに浮かびあがらせる、そういうことではなくて、別にその病とは関係なく、Millaは愛を発見するのだと思う - 彼女がMosesの首筋に触れてなぞる、彼の顔を見つめる、その驚異と感動に満ちた眼差しを見てほしい。ひとを愛しいと思うというのはこういうことだったのだ、って誰もが思いだすはず。

だから、いろんなごたごたを経て、最後にみんな - 4人に加えて隣人とか音楽の先生とかも - が集うクリスマスの出来事は感動的で、これから何度みても泣いちゃうと思う。 Millaが夜明けの木々を、世界を見あげるところ。 彼女が満ちていく自分の生を抱きしめる瞬間。

真ん中の4人の演技はみんなすばらしいのだが、Millaを演じたEliza Scanlenさんは、”Little Women” (2019)のBethをやった人で、あらためてあの四姉妹のキャスティングがとんでもなかったことを思い知る。 ママ役のEssie Davisさんは、”The Babadook” (2014)でも子供にきりきり舞いさせられる役立ったし、パパ役のBen Mendelsohnさんはこんなにすごい役者さんだったのか、って。

音楽もすばらしくて、サントラが出ているのならぜったい買う。クラシックからダンス系まで見事に場面を鷲掴みにする強い音たちが響いて、The Stranglersの”Golden Brown”をZephyr Quartetがカバーしたのとか、プールサイドの一番すてきなとこで、 Vashti Bunyanの”Diamond Day”がフルで流れる(ぼろ泣き)とか。

ストリーミングに来たら、また見よう。

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