8.20.2020

[film] The Lighthouse (2019)

 13日、木曜日の晩にBFI Playerで見ました。なんとなく見逃していたやつ。

A24配給によるサイコホラー(かな?)で、脚本は監督のRobert Eggersと彼の兄弟のMax Eggersの共同。1890年という時代設定を意識して画面比は1.19:1、1938年以前のヴィンテージのBaltarレンズを使って、35mmのDouble-X 5222というモノクロフィルムで撮って、音はもちろんモノラルで、結果、穴倉を覗いているような四方を閉ざされたごりごりの格子模様から逃げることができない。

1890年、ニューイングランドの灯台にふたりの灯台守がやってきてこれから4週間、彼らはここで一緒に暮らして仕事をすることになる。上がThomas Wake (Willem Dafoe)でやたら高圧的でおならばかりしていて、彼の下で食事に掃除に下働きぜんぶをやるのが「Lad - あんちゃん」と呼ばれるRobert Pattinsonで、彼はこの後そんな呼び方するな、とEphraim Winslowと名乗り、更に本名はThomas Howardである、という。他に変なのも出てくるけど、登場人物はこのふたりと、カモメと、人魚と。

天気はずっと悪くて海も空も同じ灰色で風がごーごー耳を塞いでカモメが合いの手を入れて(ヘッドホンで聴いているとずうっと壁のように風鳴りが)、Thomas Wakeはどこまでも不機嫌に理不尽にきつい仕事を言いつけてもう一人を貶して文句ばかり言っている。映画は主に奴隷扱いされているThomas Howardの目で、自分の部屋にあった小さな人魚の彫り物とか、灯室(光源レンズがある部屋)に裸になっているThomas Wakeを見たり、不吉でやかましい片目のカモメとか、不機嫌と悪天候に晒されて現実と妄想がごっちゃになって狂っていく様を描く。とは言ってもThomas Wakeは最初から狂犬のようだし、苦痛に不安に不満を和らげたりごまかしたりするためにふたりでずっと酒を呑んだり歌ったりもしているので、なにかの境界が倒れて向こう側に突き抜けてしまったかんじはない。とにかくずうっと吹き荒れる嵐の中でふたりの男が怒鳴りあって取っ組みあって、それが延々。そんなことをやっているうち、救援の船も寄れないような大嵐が何日も続いて食べものが底をついて、酒もなくなって。

地の果てにある灯台 - 船乗りを救うためにある灯台に働きにやってきた彼らが呪われた極限状況みたいのに引き摺りこまれて救いようがなくなって散々、というよりは自分たちで互いの墓穴を掘りあってあーめん。どこまでもダーク(黒灰色)なテンションに貫かれているのでかわいそうなかんじはしなくて、一生やってれば.. になるのだが、最後の方で寓話・神話的なところに寄っていっちゃったのは、わかんなくはないけど賛否あるかも。まあ、そうすることでただの残虐スプラッターになってもおかしくないところをなんとか文芸モノぽい輪郭に留めた、のだろうか。 ほんとは神話もくそもない肥溜めみたいなところにただ墜ちてそのまま海の藻屑に、でもよかったのに。

元は実際に1801年に起こった事件 - "The Smalls Lighthouse Tragedy"を緩くベースに、E. A. Poeの未完の遺作 - "The Light-House"も参照して、Herman MelvilleやR. L. Stevensonの海洋小説のトーンも入っている – というのは見終わってから知って、そうかもねえ、とか思うもののとにかくふたりの至近距離のぼこぼこ言い合い殴り合いがすごくてそれどころじゃない。それくらいWillem Dafoeの咆哮とRobert Pattinsonの暗く憑りつかれた目はじっとり残って夢に出てきそうで。

これ、海辺の特設テントとかで夜中に(もちろんフィルムで)上映したら雰囲気でそうだねえ。最後にテント内にカモメを放つの。

あ、海の恐ろしさみたいのはもう少し描いてもよかったかも。Jean Epsteinの映画に出てくる海みたいな海、とか。

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