6.22.2020

[film] Tommaso (2019)

15日、月曜日の晩、Lincoln CenterのVirtual Cinemaで見ました。
Abel Ferraraの新作で、Willem Dafoeが主演、と聞くとすごくゴスでおっかないイメージしかなくて、でもスチールを見るとかわいい女の子も映っているので、ひょっとしたら”The Florida Project” (2017)みたいなやつか? って思って、でも勿論そんなことはないのだった..

アメリカ人のTommaso (Willem Dafoe)はローマにいて、女性講師とイタリア語の個人レッスンをしてて、その帰りにはデリで食材を買ってコーヒーを飲んで、アパートに戻るとヨーロッパ人で相当年下に見える妻のNikki (Cristina Chiriac)とかわいい3歳の娘のDee Dee (Anna Ferrara)がいてお料理作ってあげたりする。ここまでだとふつうに生活している幸せそうな男で、カメラは暫くそんな彼の日常を追っていく。

Tommasoは定職にはついていないようで、妻子の世話 - 料理とか公園に散歩とか - をしたりしつつ、若者向けのダンス(演技?)のワークショップをしたり、映画のシナリオ - エスキモーと狂暴熊 – みたいのを書いていたり、夜にはグループのセラピーセッションに出て自分の経験を泣きながら話したりしてて、それによると怒りを抑えきれない性分でアメリカにいた過去に暴力沙汰とかいろいろあったらしい。これに加えて彼の頭の中の妄想なのか、過去に作成した or これから制作する映画なのか、現実との境目が曖昧ないろんな映像 - 妻の浮気、自分の浮気、などなどが脈絡なく入り乱れて、そういうのと共にだんだん”The Shining” (1980)のあれになっていっちゃうのかしら.. という緊張感を孕みつつ、とにかく目を離すことができない。

Tommasoを現実に繋ぎとめてくれている唯一の希望で命綱の愛する妻と子は、意図的ではなくふつうに連絡取らなかったり取れなかったりがあって、そうすると彼は心配してキレて、すると妻も子も怖くて近寄らなくなって、だんだん ..  という誰も悪くないはずなのに、の典型的な溝の循環にはまって、怒りをコントロールできなくなっていく。そのミリ単位で狂気が寄ってくる/狂気に寄っていくかんじの不気味なことったら。

ローマという土地で、映画制作者の妄想が暴走して現実と見境つかなくなって、というとフェリーニの世界みたい、なのかもしれないけど、あの完結したお花畑の世界を穴だらけ隙間だらけのあばら家のすごくLowでRawなところに転移させると、こんなふうになるのかも。快楽、といっても被虐のそれで、スプラッターに転ぶ一歩手前のところをごわごわに白く乾いたWillem Dafoeの頭部 – からっぽでなんも考えていないような - がぐいぐい彷徨っていく。いちど睨まれたらもう終わり、のかんじしかない。

彼のアパートの屋内の照明が映しだす陰影もすごくて、あの変な影はなに? とか電球が切れたら取り替えればいいだけなのになんでそんなに、とか。もういっこは言葉で、彼は妻と片言の英語かイタリア語でしか会話できなくて、ひょっとしたらぜんぶ家のせいとか言葉のせいにできたのかも知れない。けどここではそっちじゃないこの狂気はおれのものだ絶対渡さない、ってとにかく彼は強くて、最後までその勢いで行ってしまう。 とにかく死でも悪魔でもいいから構ってほしかったみたい。

ひょっとしたら”The Florida Project”もTommasoのキャラでやったらおもしろくなったかも、とか。それか彼の具合が悪くなったのはひょっとして”The Florida Project”に出ていたときだったのかしら、とか。

とにかくこの映画はWillem Dafoeという俳優の顔の造形とか頭蓋の形とか皺の深みとかしわがれ声がその頭と体が闇と光の間を行ったり来たりするのを眺めて浸ってううぅって唸る、そういうやつだという気もする。はやく“The Lighthouse” (2019)も見なきゃ。


朝 〜 午前中はひんやりした風が吹いて上着を着てないと寒いくらいで、午後になるとなにがどうなるのか気温がぐいぐい上がって扇風機(の羽のないやつ)をかけないとやってられなくなる。 その大気の境目とか推移がどうなっているのかどうしても知りたい。

Prefab Sproutの”Steve McQueen”がリリースされて35年、だそうです。くどいけど、35年て、人が生まれてから軽く萎れたおっさんになるまでの歳月 - 35歳を過ぎて生きてるなんてありえない、ってかつては蔑んでいた、そういう時間のかたまりなわけです。つまり … 以下延々。

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