4.23.2020

[film] Radio On (1979)

13日、月曜日 – 四連休の最後 – の昼、BFI Playerで見ました。

Time Out誌のFilm EditorだったChristopher Petitの初監督作で、Wim Wendersがassociate producerに入っていて、撮影もWenders組のMartin Schäfer。日本でも82年に公開されているのね。憶えてないわ。

英国のロードムービー。いっぽん道を延々進んでいく(しかない)アメリカのロードムービーとも入り組んだ国境に多様な人たちが交錯する(しかない)ヨーロッパのロードムービーとも当然違って、天気は曇天、風景はだいたい同じような原っぱと羊とぱっとしない街並みしかなくて、「ロードムービー」からイメージされる「遠くに行く」、「知らない土地に行く・抜ける」かんじがない。単に風景を撮って映すだけなら紀行もののビデオと同じで、ロードムービーって、旅の行程のなかで登場人物が変わったり変わらなかったり消えちゃったりするその様を撮ったものだと思っていて(違っていたらごめん)、そういう点では、どこまで行っても変わらない - モノクロの画面も含めてとっても袋小路で同じところを延々回遊しているようなどん詰まり感がある。

ロンドンでラジオのDJをしているRobert (David Beames)がいて、弟の自殺の原因を探るべく車でブリストルに向かう途中で出会う風景とか人とか。ロンドンの映画館(あれどこだろ)では大島渚の『愛の亡霊』(1978) - “Empire of Passion”がかかっている。 ドイツから離れ離れになっている娘に会いにきたIngrid (Lisa Kreuzer) – “Alice in the Cities” (1974)のAliceの母。ここで探している娘の名もAlice – とか、道中のスタンドにいるどさまわりミュージシャンのSting – Eddie Cochranの“Three Steps To Heaven”のギターリフを延々弾いてる – とかと会っても、床屋に行っても、安ホテルに泊まっても、パブに入るのを断られても、それが劇的ななにかをもたらすというより、それぞれは風景のひとつとしてぽつんとある。そこから話が転がっていくかんじはまったくないの。

そんなののどこがよいのかというと – いやよくないか自殺した人がいるのに - それが英国の風景だから、としか言いようがない。ロンドンからブリストル、車でせいぜい2時間半くらいの距離なのに(だから)ぜんぜん前に進んでいる感もなにかが開けたり変わっりするかんじもしない。何度か聞こえてくるKraftwerkとかRobert Frippの”Urban Landscape”のように出口なしのぽよーんとしたトーンが反復されて空間を埋めていく。車窓を流れていく風景に被さるこれらの音風景がどこまでもついてくるの。 自殺の原因が明かされることはなくても、生と死の分岐が明確にあるわけではない閉塞感は見ているこちらにもやってくる。

79年、パンクは既にあったはずだが流れてくるのは、Bowieの”Heroes/Helden”であり”Always Crashing in the Same Car”であり、Kraftwerkの*Radioactivity*や”Uranium”であり、工場でBGMのように流れるIan Duryの”Sweet Gene Vincent”であり、Wreckless Eric(お願い、がんばって回復して!)の”Whole Wide World”であり”Veronica”であり、The Rumourの”Frozen Years”であり、ずたずたにされたDevoの”Satisfaction”であり、つまり、抵抗したり逆らったり風景を無理やり変えてしまうような音ではない。当時ラジオやパブで流れていたであろう音、カーステで流れていたであろう音が並べられている。 ここに79年の英国の公道の上にあった政治的な抑圧 - 周到に意図されたそれ - を見ることができる。

すごくよくて、ずっと見ていたかったのだが、これは映画館の暗闇で、フィルムで見たかったねえ。


ここのところ、雲ひとつないありえないような晴天が続いていて、夕方の遅い時間になるとスーパーが混むので、会議がなければ16時くらいにお買い物に外に出る。そんな毎日買い物するものもないのだが、ものすごく気持ちよくて、お花や緑を眺めたりしつつ外をてけてけ歩いているとなんでこれがふだんの日常じゃなかったのだろうね? って。 やればできたはずなのでできなかったことが今、災厄の最中であるとはいえ、できることに気づいてしまった。 ここから前の状態 - スーツを着たり通勤の電車に乗ったり深夜まで詰めたり - に戻す/戻るのは難しい、ってみんな思い始めている。 革命はこうやってじりじりくるのよ。

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