4.20.2020

[film] Other Music (2019)

こっちから先に書く。
18日、土曜日の晩、どういう上映形態なのかよくわからないのだが、主催しているサイトにリストされているレコード屋経由で申し込んだら見ることができた。この日の時点でロンドンのレコード屋はリストになくて、ずっと通っていたBrooklynのあそこでもできるのかしら? と思ってクリックしたらできた。この日はRecord Store Dayで、延期になっていなければ朝5時からRough Tradeとかに並んで、晩は全世界で一斉に上映されるはずだったこの映画をRegent Street Cinema(ロンドンでの上映はここ1軒)で見るつもりで前売りも買っていたのだが、あれ、戻ってこないだろうなー。

Other Music(以下OM)っていうのはマンハッタンのEast 4thに2016年まであったレコード屋で、ミュージシャンも含めていろんな人々に愛された小さなお店で、なんでそんなに愛されたのか、関係者のインタビューと閉店当日までの様子を綴ったドキュメンタリーで、自分もここには随分通って、ひとつのお店に使ったお金の量だと生涯のベスト5には入るくらい愛していた。ので個人的な思い出も含めて少し書いておきたい。

OMの前身はヴィレッジにあったKim’s Videoだった、というくだりが出てくるがKim’sは90年代によく通っていた。ふつうのレンタルビデオにはないようなヨーロッパとかアバンギャルド系のVHSとかLDもレンタルしていて、でもレンタルは嫌なので買おうとするとロッセリーニとかロメールのとかは高くて、そうすると隅の方にあった音楽コーナーのレコードは買えなくなるな、とか悩んで考えすぎて熱を出して外にでる、ということばかりの罪なお店だったの。OMの前はKim’sだった、と聞いてああー、映画セクションがなくなってよかった、って思ったわ。

そもそも80年代の英国・ヨーロッパ音楽で育って、正規の英国盤こそが正典、米国盤なんてぺなぺなの段ボールでできた大量生産の粗悪品、と思いこんできたモノにとって、90年代初にアメリカに行って叫びたくなったのは英国盤がない! だったの。後から少しずつそういうお店があることもわかってきたのだが、そういうお店でも米国盤がリリースされるまでの繋ぎのように売っていることが多くて、ブリットが世界で盛りあがろうとしている時にこれはきつかった(他方で、この時期はアメリカの音楽が十分おもしろくなっていたのでそっちの方に行った。なのでブリット系はわからないのが多い)。

で、OMの品揃えというのは英国盤だの米国盤だのを取っぱらって、ブラッサンスもゲンズブールもフランス・ギャルもピエール・バル―も、カエターノもムタンチスもあったし、その横に現代音楽もノイズも得体のしれないのもいっぱいあって、かといって高踏すぎてお手あげ、にもなっていなくて、その辺のバランスがよかったの。 通りの反対側にはTower Records(もうとっくにない)があって、メジャーなのはこっちに来ればより安い値段で買えたし、ここのTowerのクラシックのセクションの現代音楽の品揃えはなんでかとっても充実していた。

この時期の週末の典型的で理想的なお散歩がどんなだったかというと、Union SquareのVirgin Megastoreで動向を把握して、Strand Book Store行って、East 10thにあったAcademy Recordsで中古盤を見て、St. Mark's Bookshopでマイナー出版物とかzineを見て、OMでレコード見て、Towerも念のため見て、ここから映画を見るのならAngelikaかFilm Forumに行って、行かないのであればそこらでお茶してDean & Delucaで食材を買って帰った。(McNally Jacksonはまだなかった)  
もう見事に全滅して東の方にシフトしてしまったねえ。やだやだ。

話をOMに戻すと、ここでは棚の上の方で面出ししている中古に欲しいのが多くて、問題は高いところ(値段もな)にあるから竿を使って店員のひとに取って貰う必要があって、それをやりたくても店員さんはみんな客と話しこんだりして空いてなかったり。でも映画にあるように内容について聞いたり話しこんだりはしなかった。そんなことしてわかっちゃったらつまんないじゃん、て頑なに思っていて、これはいまだにバカなことしたかも、って。

でもここの20年間トータルのセールスベストを見ても、なんか違うの。ベルセバをずっと推していたことはわかるのだが、ここの推奨はなんか微妙にずれてて、全員が「ついで」とか「おまけ」のように買っていったのが結果的に上に行ったのではないか。 本流に転化していった”Alternative”ではなくそんな”Other Music”こそが。

これも映画のなかに出てくるが、911後のNYシーンも大きかった-  と、“Meet Me in the Bathroom”のLizzy Goodmanさんが出てきて解説してくれる。メジャーなところではThe Strokesがいて、Yeah Yeah Yeahsがいて、The Raptureがいて、Liarsがいて、TV on the Radioがいて、Radio4がいて、LCDがいて、!!!がいて、Black Diceがいて、Interpolがでてきた。どのライブに行っても、前座の方がおもしろかったりみんな外れがなくて、なるほど「シーン」というのはこういうのをいうのか、って思った。 OMが並べていた音たちって、これらのバンドが放っていた雑種のかんじにうまくはまって、こういう雑なのってルーツを掘り下げるというより際限なく散らして試して、常に”Other”としてあることが楽しい季節だったの。

お店のひとはみんな親切で日本に帰国してから半年ぶりくらいに訪ねても「久しぶりだね」って言ってくれたり、そんなお店がなくなったことについては悲しいしつまんないけど、過度に泣いたり悲しみに暮れたりはしない。レコードでも本でも映画でも、肝心なのはそれらを自分が食べて吸収することで、次にくるのはレコードやライブや映画や本の向こうに広がっている(新)世界で、レコード屋も本屋も映画館もそこに繋いでくれた橋とか渡しとしてとっても感謝はするけど、なくなったら次を探せばいいんだ、って。そして、おもしろいというかおそろしいというか、場所を変えたって探せば出てくるときたもんだ。

でも、いまのにっぽんで起こっていることは丸焦げ焼け野原になってもおかしくないようなことで、これは自然発火でもなんでもなく、はっきりとおかしいから声をあげる。本もレコードもライブも映画も今の世のなかではライフラインなんだよ。これらのために我慢して仕事してお金を貯めて旅をするのに勝手にわけわかんない線ひいて偉そうにお触れだしてんじゃねえよ、って。

こういうお店のドキュメンタリー、もっと見たい。
次に見るべきは”The Booksellers” (2019) なのだが、Film Societyでやっているやつ、こっちからは見えないや。


在宅の金曜日もちがうけど月曜日もやはりちがう。月曜日やだよう嫌いだよう、って朝の通勤の電車に乗るのって儀式みたいなものだったんだなあ。あれがないとどうなるかというと無理にでもテンションあげないとあかん、てどうでもいいメールとかにいちいち丁寧に返事したりして午後くらいにそれが雪だるまに膨れあがり月曜日からなにやっているんだばか、になるの。 どっちにしても月曜日は..

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