4.10.2020

[film] 王国(あるいはその家について)(2019)

4日、土曜日の昼、MUBIで見ました。
MUBIというのがどこでどういう人たちがやっているサイトなのかよくわかんないのだが、この作品が見れるのなら、と。 MUBIでなんかを見るのだとしたらこれが最初のだ、と決めていた。

昨年の恵比寿映像祭でこの作品がかかることを知ったときは、(そのとき一時帰国で日本にいたので)戻るのを延ばせないかまじで検討したりした。
『螺旋銀河』(2014)を見てから、草野なつかという人はそれくらい自分にとって次を見たいと思わせる映画作家になっていて、その待望具合は、映画のというより音楽の新譜を待つかんじに近かったかも。  英語題は”Domains”。

冒頭、取り調べ室のようなところで取調官(龍健太)が読みあげる調書の内容をAki(澁谷麻美)が確認してサインするように求められる。 何のためにサインするのか? とAkiが聞いて- 裁判であなたを裁くために と取調官は返して - でも裁きは既に行われている - うまく言えないが時間、のようなものによって、とAkiはいう。

Akiが供述した事件の概要はこんなかんじ;
仕事を休職しているAkiが郷里に戻って、小学校から大学まで一緒だった親友のNodoka(笠島智)と再会する。 Nodokaは大学のひとつ先輩で二人とも知っていたNaoto(足立智充)と結婚して娘のHonokaがいて、彼らの新築の家に何度か通っているうちに、その家も含めてNodokaとNaotoの間にある息苦しさを感じるようになって、台風が来ていた日、Honokaを預かっていたAkiは彼女を川に突き落としてしまう。

で、普通であればこれ以降はその供述内容に沿うかたちでドラマが展開される(場合によってはその過程で供述内容と異なるなにかが... )とか思うのだが、そっちには向かわずに、その映画 or 芝居の場面ごとの台本読みからリハーサルまで、時系列も衣装、背景も異なるテイクが、繰り返されたり本番に近いものも含めてランダムに(たぶんランダムじゃないのかも)並べられていく。 繰り返される場合のバージョンも、同じダイアログだけではなく、少し先のものが追加されたりすることもある。 カメラは発話者ひとりをとらえるだけでなく、その隣や横にも動くし、主人公たちが移動していったであろう国道や「現場」の川の様子、「その家」の居間? を映しだす。実際に起こっているのかもしれない「事件」の周辺を、ドラマによる事件の再現というかたちで周回しながら、リハーサルである、という点でその核心を周到に避けているようだし、被害者であるHonokaは彼らの視線の先にいるだけで最後まで映しだされることはない。

だからといって事件の核心から離れてしまうことはなく、Akiの口から何度か語られる王国 - 小さい頃、台風の日に椅子とシーツで作った王国 - その後のふたりの間に居座り、彼らの人生を変えるほどの強さ - ふたりの間に暗号化通信網を敷いてしまうそのありようがよりくっきりと示され、その後に築かれた「その家」の対立が浮かびあがる。 この辺 - リテイクを繰り返して幾重にも重ねていくこのやり方が、リニアに流れていく物語の時間とは別の生々しさを作りだす、というか。

そして、この濃い時間を作りあげるDomainというのはもういっこ、この映画制作の現場でも起こりうるのではないか、とか、更にはそれを固唾を吞んで見つめる我々との間にも起こるなにかなのかも、とか。
もっとも多く繰り返された気がするエピソード - いまNaotoが務めているかつての不良高校での吹奏楽演奏会のこと - の一番最後のバージョンがなんかすごいの。あそこでのAkiの目。

台風の最中に椅子とシーツで作られたその王国と、その外縁に出来上がった家、Domainの内と外での間の密約と憎悪をめぐるドラマ。 監督の前作 - 『螺旋銀河』(2014)は、(これも)ふたりの女性が、コインランドリーという場から立ち上がる螺旋の銀河をみつめる映画で、とにかく世界の成り立ちをきちんと追おうとしているところがすばらしい。

あとは、ドレスリハーサルの次の、完成形を見たいな、とも少し思うのだが、なくてもぜんぜん。 今回の台本読みだけでは見えてこなかった謎が明らかになるのではないか。
それでもとにかく、デモテイクばかりが収録されたBoxを聴いて浸っているだけで十分なの。

丁度いまの時期、世界中でいろんな王国が立ち上がっていて、ここでの経験はその後の人生を変えてしまうことになるだろう。その外に出て他に侵入していくことは死にも繋がって、という点もまた −


イースター休暇の初日、見事にきらきら初夏の快晴で、ガーデンがあるひとはピクニックで寝転び、公園ではお散歩を楽しんでいた(距離を置くってルールを守りつつ、ね)。 で、こんな気持ちよい天気の時に東京からオンライン飲み会とかが入ってくる。 それもいちばん気持ちのよい13時に。しーぬーほーどーつまんなかった。 90分あれば映画いっぽん見れる。もう二度とやらない。

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