4.03.2020

[film] Fin de siglo (2019)

3月29日、日曜日の午後にCurzon Home Cinemaで見ました。見逃していたやつ。よくよく考えてみると映画って、再見でもない限りはぜんぶ「見逃していたやつ」なんだよね。 英語題は訳語そのままの”End of the Century”。
監督/脚本は、これが長編デビューとなるアルゼンチンのLucio Castro。

バルセロナの町(特に表示されるわけではなく、後の方で会話で出てきてそれとわかる)に旅行者のようなOcho (Juan Barberini)がやってきて、Airbnbと思われるがらんとしたアパートの一室に入ると、特にすることもなさそうにビールを飲んだりバルコニーから町を見下ろしたりしている。

そうやって歩いているところを見かけて気になった”KISS”のTシャツを着たJavi (Ramon Pujol)を泳ぎに行ったビーチでも見かけて、声をかけてみると部屋にもやってくるので、少し会話をしてキスしてセックスをする。ここまでだとただのゲイポルノかしら、とか思う。

そのうち食べ物を買いに町に出て、戻ってからベランダで互いのことを話す。OchoはNYから休暇で来ていて、詩の雑誌の編集をしているがそれだけでは食えないのでマーケティングの仕事もしていて、20年付き合っていた恋人と最近別れた、とか。Javiはベルリンで暮らしながらミレニウムについてのドキュメンタリーを撮っていて、2年前に結婚して最近女の子を養子にした、とか。

で、突然Ochoが僕らは20年前に会っているよね? と言い、Javiもそうだ、って言うので、え? ってなるのだが、そこから99年のJaviと恋人のSonia (Mía Maestro)が暮らしているアパートをOchoが訪ねるシーンになんの切れ目もなく飛んで、暫くするとまた戻ってきて、Ochoは20年一緒にいた恋人のことも思いだすことができないのだ、と語る。

20年ぶりの偶然の再会をすごいと思うか、20年ぶりに会ってセックスまでして互いのことを忘れていたことにびっくりするか、そんなの起こるときには起こるんだからどうでもいいことなのか、そういう不思議や謎から離れたところで生起する生とか旅の様子を描いているのだと思った。

Ochoは頻繁に嘔吐をしたりしていてAIDSである可能性も漂わせているのだが、彼が本棚から手に取る一冊がDavid Wojnarowicz (1954-1992)の”Close to the Knives: A Memoir of Disintegration” (1991)で、そこからの一節が字幕で表示される;

“I’m getting closer to the coast and realize how much I hate arriving at a destination. Transition is always a relief. Destination means death to me. If I could figure out a way to remain forever in transition, in the disconnected and unfamiliar, I could remain in a state of perpetual freedom.”

彼がもう一冊、本棚から取りだして読むのはジュール・ヴェルヌの“Alrededor de la Luna” (1870) 『月世界へ行く』。

誰にもどこからもコントロールされない状態でのあてのない旅 – disintegration への希求、これって死と裏返しのもの – あるいは既に死んでいる人の – 言い草なのかもしれないけど、それが夕闇に沈もうとするバルセロナの町を背景に中年にさしかかろうとしている男二人の姿に被さるとなんだかとっても.. っていう”End of the Century”のおはなし。

David Wojnarowiczって、日本での紹介のされかたはよくわかんないけど、欧米では結構重要なアーティストでいろいろなところに現れる。有名なところではU2の”One”のシングルのジャケットに彼のバッファロー(アメリカ原住民に追い詰められて崖から落ちていく)の写真が使われている。

あと、99年のシーンでOchoとJaviがレコードをかけて踊るとこでA Flock of Seagullsの”Space Age Love Song" (1982)が流れるの。えー、って少しびっくりするのだが、この曲はかっこいいんだよ(ということを言いたい)。


こんなことになっていなければ、2日の晩は、BFIでAlessandro Cortiniのライブイベントがあるはずだったし、3日の晩は、同じくBFIでPet Shop Boysの映画 - “It Couldn’t Happen Here” (1988)のDVDリリース記念の上映会と彼らとのQ&Aがあるはずだった。 こんなことになっていなければ、Adam Schlesingerは..  ってほんとに悲しいことばっかり起こる。 4月はまだ3日しか経っていないのにな。

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