11.12.2011

[film] Basic Training (1971)

New Yorkにおります。 
最初のうちはよいお天気。 仕事はぼろぼろ。 例によって。

まだ先週の、日本にいたころのやつから。

30日の日曜日、髪切ってからユーロスペースでWiseman2本見ました。
ユーロスペースに向かう途中、渋谷のマークシティをご夫人(?)と散策しているWisemanを見かけた。
彼が日本の何かをテーマに作品を作ることって、なんとなくないような気がするのだが、どうだろう。

最初が"Hospital"(1970)。 ハーレムの、FRDの横にあるでっかい総合病院の日々を追う。
病院ていうのは多くの人が生まれたり死んだりする場所で、一生のうち、そこに1回も行かずにすむひとは殆どいないと思うのだが、だから、ものすごくいろんなことが起こる。 量も質もはんぱでない。

問題のないひとは普通、病人には来なくて、問題があるから病院にくる。
だから、病院はあらゆる問題の巣窟で博覧会で、病気を治療する以外にもいろいろくっついてきて、警察とかソーシャルワーカーとかセラピストとか、そういう人たちとの連携が必要だし、他の病院とのやりとりもいろいろある、お坊さんまでうろうろしていたりする。

要するに、いろんなことが起こってものすごく混沌としていて大変そうだ、と。
この底なしの抜けられない迷宮のなかにいるような病院のありようをきちんと描いていてすごいしこわいし。
モノクロなのでそんなでもないのだろうが、胴体をぶりぶり開いていくとことか、腹の奥の臓物ひくひくとか、ああ死んでしまうとか言いながらそこらじゅうにゲロをぶちまける若者とか、首を刺されて血をぴゅうぴゅう吹きながら運ばれてくるひととか、そんなのばっかし。

これらのひとつひとつが映像としてのこわい、というより、もっとこわいのはこれらが切れ目なしに底なしに続いていくことで、ここから抜け出せなくなるような閉塞感、居心地の悪さがじわじわと襲ってくる。 
同じく病院を描いた"Near Death"(1989) のほうが、まだ隣り合わせにある死、生のすぐ向こう側にある死をテーマにすることで閉塞感からは解き放たれていたように思ったの。

もちろん、だからどちらがいいとかわるいとか、そういう話ではぜんぜんなくて、ただ、病院ていうのはそもそもがそういう場所なのではないか。  居心地のいい病院なんてありえないよね、とか。

次が"Basic Training" 『基礎訓練』(1971)。

冒頭でWisemanさんの挨拶があった。
ここで撮影された兵隊さんたちは実際にこの訓練の後、戦地に赴いた人たちが多かったはず、とか、こういう撮影が可能だったのは当時の軍のオープンであろうとした方針のおかげで、だから口を挟まれることも殆どなかった、とか。
Wiseman自身も軍隊にいたので同様の訓練を受けたことがあるが、当時のメニューよりは若干軽めになっているかも、とか。
キューブリックが"Full Metal Jacket"(1987) の撮影前にこのフィルムを持っていっちゃって取り返すのに半年かかった、あの映画の前半部分にはこの映画のいくつかの場面のほとんどコピーだ、とか。 そう言われてみると、Matthew Modineそっくりに見える兵士もいたりして。

アメリカ陸軍が一般の人たちを受け入れて軍の兵士としての訓練をする、その基礎訓練の様子を追う。
入隊のところから体力づくりみたいな訓練、最後のほうの実戦に近いような訓練、そして卒業(?)。
合い間合い間に、行進がうまくできない生徒とか、問題を起こした生徒とのやりとり、などが挟みこまれる。

上の命令なんて知ったこっちゃねえよ、オレはオレなんだようぜえな、とか平気でぶうぶういう生徒とかもいたりする。
ここはひとりひとりの個性を伸ばす学校ではなくて、断固たる統制を求められる軍隊なので、そういう生徒に対しては矯正というほどではないが指導と、それでも異議がある場合はここに申告するように、というような「フェア」な対応が為され、いちおう軍の秩序は保たれる。

問答無用とか圧殺とか同調圧力みたいのはあんまなくて、この枠のなかではきわめてフェアでロジカルで、そういうとこもひっくるめての「基礎訓練」で、だからこそ怖いのよね、としみじみ思った。

すごいねえ、と思ったのは、これが自衛隊に入ろうみたいなプロパガンダ映画にも、軍教育の異様さを暴いた反戦映画にもならず、アメリカ社会のなかで認知され、特定の機能と役割をもった集団組織 - 学校や病院と同系の - として、その様相を描くことに徹していることで、それはフレーズでいうと「国益維持のために人殺しを実行する集団」みたいなふうになると思うのだが、そういう距離感と、それ故の正しさ- "Hospital"にあった居心地の悪さと表裏一体の - に貫かれていることだった。
ああいう題材を長期に渡って撮っていたらどっちかに寄ってしまいそうなものなのに。

病院も軍隊も行かなくてすむならそれに越したことはないねえ、とか。
どっちかに入らなきゃいけないとしたらどっちがよいだろうか、とか。

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