9.01.2022

[film] Nope (2022)

8月27日、土曜日の夕方、109シネマズ二子玉川のIMAXで見ました。

Jordan Peeleの新作。ぜったい怖いに決まってるし、やな気分になるし、でもおまえは見ないわけにはいかないだろう、ってあの予告は言っていた。以下、ふつうにネタばれしています。

冒頭、旧約聖書のナホム書の「わたしはあなたに汚らわしいものを投げつけてあなたを辱しめ、見世物にしてやる(大意)」が引用される(なるほど)。
そこから1998年のTVシットコム”Gordy's Home”の撮影現場(事故)の様子が少しだけ出てくる。横たわって動かない子供の足と全身ほぼ血まみれのチンパンジーの姿と。

現代のハリウッドの近くの牧場で映画やTV撮影用の馬を提供している牧場主のOtis Sr (Keith David)とOtis “OJ” Haywood Jr (Daniel Kaluuya)が牧場の今後の経営について話していると空が曇って雲の向こうに何かが.. と思ったら空から何かがばらばらいっぱい落ちてきて、そうやって落ちてきた硬貨を頭に受けたSrは亡くなってしまう。

以下、5つのチャプターが展開していく。"Ghost", "Clover", "Gordy", "Lucky", "Jean Jacket" – なんの名前か?

残されたOJと妹のEmerald “Em” (Keke Palmer)はハリウッドのスタジオに行って、誰もが知る19世紀のEadweard Muybridgeの乗馬の(動いているように見える)写真の(ちっとも注目されてこなかった)騎手は自分たちの祖先なのだ!って宣伝するのだが芳しくなくて、近所で西部劇のテーマパークを経営するRicky “Jupe” Park (Steven Yeun)を訪ねて馬を買って貰おうとする。Jupeは冒頭の”Gordy's Home”に子役として出演していて、あの惨劇の生き残りだった..

というどんづまりの牧場経営をなんとかしなければと奮闘する兄妹と、牧場周辺で頻発する停電 – というよりあらゆる機械の動きが停止する現象 - とそれに応じた動物たちの挙動、それらを利用しようとするテーマパークと、空の上にいるらしい何か – あれはなんだ? ってその姿をとらえるべく近所の電気屋の電気技師Angel (Brandon Perea)とかハリウッドのスタジオにいた著名なドキュメンタリー作家Holst (Michael Wincott)の協力を得てあれこれ仕掛けていく。

いくつかの惨劇を通して空の上にいるやつの習性とか反応とか – 吸いあげて吐きだす - を掴んでいくのと、そこからそいつとどう対峙してやっつけようとするのか、っていう流れとしてはパニック ~ 西部劇、のかんじ。ホラーというよりこれがなぜホラーとして機能しうるかを考えさせる様式のような。 警察や軍隊を呼んで対応を頼むより、まずはそいつの姿を「撮ること」に重点が置かれる。なぜならそいつは目を向けて合わせた途端に問答無用で襲いかかってくるやつで撮らせてくれないもんだから。

あるものを見よう、撮ろうとしたときに、見られる側、撮られる側がこちらの想定通りに動いてくれない、それどころか… ていうのは動物からカマキリからそういうものだししょうがない、むしろ見る側、撮ろうとする側、それを仕掛ける側の意識や挙動 – Holstの「不可能を撮るのだ」- がそうさせている/それを強いているのではないか、っていう政治を巡る食い合いに撚られていくのはおもしろい。そうやってのこのこ寄ってきた顔のないバイカー/ジャーナリストはあっという間に。

前作の“Us” (2019)はこれまでずっと視野の外にあって見られてこなかった者たちがどこでどうやって生きてきたのか、を夜闇や地下の暗さの反射 - 地上と地下の投影関係 – のなかで描いていた。今度のは空の上、動いていると思ったら動いていなかった雲のなかにいた - そんな地上と空中の間で起こって、ふつう見あげたってあんなのがいるとは思わない – “Nope.”。(ピリオドがだいじ)

もちろんここにはヒトの人種だけではない動物まで含めた種の話まであり、それは単なる差異というよりも差別の問題として顕在化している。見る - 見られる(見られない)の欲望も含めたそのありようを操作してきたのはいったいどこの誰なのか。

そして、そんな「操作」云々を超えて、どうすることもできない、分かり得ないなにかもある。Jupeはそこの賭けにでて、やられる。(エイリアンものの定番) - “Nope.”。

「見上げたらやられる」のが今作だとすると、「見上げてはいけない」っていう角度からこの問題 - バカは死ななきゃ… - を最近取りあげたのがAdam McKayの”Don’t Look Up” (2021)だった。コメディーでもホラーでもどっちにしても死ぬのよ。

B級怪獣映画としてのスケール感、昼と夜の緻密な描写とそこに波のように被さってくる音楽(Michael Abels)もすばらしいと思った。撮影はIMAXと65mmカメラを駆使しているそうなので、できればIMAXの劇場でみてほしい。極上の、すばらしくシリアスな「ウルトラQ」の世界。

”Gordy's Home”のSNLのパロディーでChris Kattanの”Mr. Peepers”が話題になっているようだが、Chris Kattanはやっぱり”Mango”の方だとおもう。あと、Darrell HammondだってCheri Oteriだってすばらしかったんだから!

あと、Emは、まんなかくらいでThe Jesus LizardのTシャツを着ていたので、やられることはぜったいあるまい、と思った。

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