9.03.2022

[film] À l'abordage (2020)

8月28日、日曜日のごご、ユーロスペースで見ました。

『彼女のいない部屋』を見て一時間後くらいだったのだが、食べ合わせはあんまし。どちらもそれぞれよい作品だと思うののだが、続けて見るのはきつかったかも。カスレ食べてからポトフ、みたいな。
原題を翻訳にかけると “boarding”なので「しゅっぱーつ」とか? 英語題は”All Hands on Deck”、邦題は『みんなのヴァカンス』。

Guillaume Bracの2020年の作品。
パリのある夏の晩、公園の盆踊りでChérif (Salif Cissé)とAlma (Asma Messaoudene)が知り合って仲良くなってそのまま公園で一緒に野宿して、そこから慌てて職場に向かうAlmaを好きになってしまったChérifは、彼女の別荘がある避暑地に自分達のヴァカンスも兼ねていかないか、って友人のFelix (Eric Nantchouang)を誘って、Felixは自分はインドアだし別にヴァカンスなんて、だったのだが、サプライズで攻めて彼女をおとすぞ、ってChérifが燃えているので付き合うことにする。

ライドシェアアプリで呼んだドライバーのÉdouard (Édouard Sulpice)は女性ふたりって聞いていたのに現れた2人がぜんぜんちがうし、車内では行儀悪いし、母親との会話を聞かれて「子猫ちゃん」てからかわれたりの散々で、更にChérifがAlmaの家の近くを見たいからって無理に寄り道したら車がなにかを踏んで壊れて、車が直るまではその近所のキャンプ場でヴァカンスせざるを得なくなる。

予定もしていなかった場所での滞在に加えてChérifのサプライズは見事に失敗し - 家族と一緒なんだし、あたしサプライズとかだいっきらい - それでもなんとか持ち直したかに思えたがAlmaの脚の怪我をきっかけにうざいオランダ人組が横にきて、Felixは赤ん坊(かわいい)連れのHéléna (Ana Blagojevic) の子守りを手伝っているうちに彼女と仲良くなり、Édouardはやけくそで渓流くだりとかキャンプ場のアトラクションに参加していって…

これの前の週にユーロスペースで監督の旧作 - “Un monde sans femmes” (2011) 『女っ気なし』と”Le naufragé”(2009)『遭難者』 - どちらも再見だった- を見て、途中で事故に遭って本来やりたかったことができない/そこに到達できない、そこからの派生として、ヴァカンスに期待していたことが片っ端から横に逸れていく、そして運命の人なんてぜったい、逆立ちしても現れない、そんな出来事とか人々が入り乱れてぼーっとしていくコメディで、これって(やっぱり比べたくなる)Éric Rohmerのヴァカンスを舞台にしたrom-comとは異なるねえ、って。

Guillaume Bracの場合、どうしても事故とか障害前提で、寄ってくるのには碌な奴がいなくて、実際にいないだろ? っていう描き方、これに対してÉric Rohmerの場合、そこには絶対恋愛の神がいるしそれに近いなにかが起こる - なぜって人は皆そのためにヴァカンスを取って移動するのだから、と。 覚悟と確率のせめぎ合いなのか、今世紀に入って出てきたSNSとかソーシャルななにかが作用しているのか? ロメール映画の主人公が今の時代にいたら? ってたまに思うのだが、たぶんみんなマッチングアプリとかでさくさく探して絶対リスクを取らない方式で行く気がする(ので映画になるかならないかも)。

なので、ヴァカンスの終わりも、ちっとも終わりとか区切りの季節のかんじになっていないところがおもしろい。そんなのヴァカンスって呼んじゃいけないんじゃないの? これは良いことなのか悪いことなのか、その答えを握っているのは誰なのか? などなど。 なので、この映画の終わりもそんなふうなの。現実に戻る、というより変な夢がまだ続いてて切れてくれなくて、それでもいいか… みたいな。

あとこれ、わかっててわざとやっているのだろうけど、すごい男性の目線だよね。自分がうまくいくのであれば万事OKって無邪気に信じて周囲をそのノリで染めてかえりみないしぜったい反省もしない。盛りあがるのも落ちこむのも自分次第、って。 Rohmerだと、”La collectionneuse” (1967) - 『コレクションする女』あたりにあったノリ。

おもしろいし、笑ってみていられるのはここにあるようなヴァカンスとかどうせ無縁で関係ないから? 実際にこんな目にあった人にとってはやはり笑えないのかしら? でも笑っていいのよね?


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