9.12.2022

[film] Flesh (1932)

9月10日、土曜日の午後、シネマヴェーラの『蓮實重彦セレクション 二十一世紀のジョン・フォードPartⅡ』で見ました。 邦題は『肉体』。

監督John Fordの名前は”uncredited”になっていて(”A John Ford Production”の名前はある)、原作はこの同じ年に”Grand Hotel”を監督しているEdmund Gouldingで、もういっこ気になるのはWriting CreditsのところにはWilliam Faulknerの名前が”uncredited”で載っている。John FordとWilliam Faulknerの名前が”uncredited”で置かれている変な作品。

冒頭、修道院のような刑務所のようなところで、Laura Nash (Karen Morley)の釈放が告げられる(刑務所だった)。刑務所側は彼女にこの際もうアメリカに戻ったらどうか、と勧めるのだがLauraはおそらく相棒か恋人と思われるNickyの釈放を強くお願いして、結局そこまで。

酒場でビールを飲みながら同じホールで(賭け?)レスリングをやっているところ(ここはドイツだった)があって、従業員のPolakai (Wallace Beery)はそこの人気レスラーで肩に樽を担いでビールを注いでまわる、みんなに好かれる力持ちのよい人で、そこで無銭飲食をしようとして問い詰められたLauraがPolakaiに救ってもらって、更に宿もないので彼が住んでいるとこ(猫がいる)に泊めてもらって、Polakaiは明らかにLauraが好きになっちゃったようなのだが、LauraはNicky (Ricardo Cortez)を想って待っているので堅いままで、ある晩Polakaiのお金を盗もうとしたところを見つかり、「兄」のNickyを保釈させるためなの、って泣きながら嘘をついて、お人好しのPolakai(ほんとにバカやあんた)はお金を出してあげてLauraはNickyと再会する。

こうしてリリースされたNickyはLauraのところにやってくるのだが、自分が「兄」でLauraが妊娠している(早く釈放されたのはそのためだった)ことを知ると、Polakaiにお金を貰ってひとりアメリカに帰っていってしまう。

残されたLauraはがっくりしつつもPolakaiと結婚して、有頂天のPolakaiがドイツのレスリングのチャンピオンになった日に(NickyとLauraの)赤ん坊が生まれる。でもLauraは変わらず沈んだままなので、Polakaiはホームシックなのだと思って、ビアホールの経営者夫妻が支店を出すために向かっていたアメリカ(ホボーケンだって..)に家族3人で渡る。

アメリカ(ホボーケン)ではドイツからチャンピオンが来たって話題になって、Nickyがマネージャーをやるから、って悪徳プロモーターのWillard (John Miljan)のところに取り入って試合をしていくのだが、うさんくさい八百長みたいなのばかり求められるのでこんなのやだ、ってPolakaiは疲れて酒に溺れていって、LauraもあまりにやくざであくどいNickyが嫌になっていって..

ものすごく悪い男たちがいて、彼とか彼らにずっと利用されてきた女がいて、反対側に純朴でお人好しでやさしい、やさしすぎる力持ちの男がいて、悪い奴らに散々利用されてきた彼が最後にどうなっちゃうのか、同じWallace Beeryの”The Champ” (1931)みたいに悲しいことになっちゃったらやだな、って思っていたがそれはなかった。

おもしろいのは典型的な善玉がドイツのレスラーで、アメリカ側はみんな悪賢くて嫌なかんじで、その凝り固まった団子の嫌なところを海を渡ってきたドイツ人が粉砕する - 最後の試合もドイツが勝っちゃう、という点。まだ戦前とは言えドイツに対してものすごく好意的、というかこんなふうにドイツ人にやられないとわかんないくらいだめで汚れているのだ目をさませ、ってことなのかしら?

もうひとつはタイトルの「肉体」 - 裸のむき出しで戦い続けるレスラーのPolakaiの周囲にいるスーツを着込んだ奴らの見せる狡猾さと非情さ。これに対して最初の方で試合の後にお風呂に入ってぶくぶくしているPolakaiの幸せそうなことときたら。 (どうでもいいけど、Polakaiがレスリングで最後に戦う相手の名前はZbyszko - ズビズコ? っていうの)

そんなふうに最初からずっと朗らかで白い無垢な肉を晒してきたWallace Beeryが最後の方で見せるとてつもなく暗い表情はドイツ表現主義映画の怪奇ホラーのように底抜けに怖い。 すばらしい俳優だと思う。彼が出ている作品は、2020年、ロックダウン中にCriterion ChannelでのFrances Marion特集で結構見た - “Min and Bill” (1930)とかも大好き。

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