5.01.2022

[film] Les Olympiades, Paris 13e (2021)

4月27日、水曜日の晩、ヒューマントラストシネマ有楽町で見ました。『パリ 13区』、英語題は”Paris, 13th District”。
原作は『サマーブロンド』などのアメリカ人 - Adrian Tomineのグラフィック・ノベル - 彼の複数の作品からキャラクターやエピソードを持ってきていて、監督はJacques Audiard、脚本にはCéline Sciamma(他、監督を含む3名が)。

関係ないけど、いまやってるMati Diop特集でかかったClaire Denisの『パリ、18 区、夜』- “J'ai pas sommeil” (1994) - 売切れでちっとも見れず- みたいに区名が数字ってなんかクールでいいな。これが「大田区」とか「杉並区」とか「世田谷区」とかだったりすると浮かんでくるものがなんか.. (この数字で作られたイメージも人によってはあるのだろうけど)原題の”Les Olympiades”は70年代にこの地区に建てられた高層ビル群のことだそう。

パリ13区でコールセンターの仕事をしているÉmilie (Lucie Zhang)はルームメイトになるべく電話して寄ってきた高校教師のCamille (Lucie Zhang) とそのままセックスをして、悪くなかったので自分のアパートの部屋を貸してルームメイトとして一緒に暮らし始めるのだが愛の生活が続いたのは2週間くらい - ÉmilieはよかったのにCamilleはそうでもなくて - で、彼が同僚の女性を連れこんだりするし、Émilie は電話の接客で酷いこと(「ポチ」とか)を言ってクビになり、Camille にも出ていかれてしまう。

30代でボルドーから大学に入り直して勉強しにきたNora (Noémie Merlant)は、学内のパーティで金髪のウィッグをつけて楽しく踊っていたらネットのセックスチャットで有名なAmber Sweet (Jehnny Beth)と間違えられて陰で笑われたり卑猥なチャットが大量に送り付けられたりの酷いことになったので大学は諦めて地元でやっていた不動産屋で働き始めると、そこに上位試験のために教師を休職したCamilleが入ってくる。

一時は精神的に追い詰められて危なかったNoraは、落ち着いてきたのでAmberの有料のチャットにコールして彼女がどんな人か見てやれと思って、互いに眉をひそめたりしつつも話しをしていくと最初の戸惑いからだんだん打ち解けて仲良くなっていくのと、毎日仕事で会っているCamilleとの間にも恋が。

恋も仕事も失業状態だったÉmilieはチャイナタウンの中華料理店でウェイトレスのバイトを始めて、マッチングサイトで手当たり次第に一時の出会いを繰り返したりしつつCamilleとも会って、そこからNoraとも会って…

運命の相手を探すというより自分が気持ちよければじゅうぶん、というかんじで踊るように - 実際踊る - さくさく男をとっかえていくÉmilie、ボルドーに置いてきた彼のことは知らんが傷を癒やすべくCamilleとリハビリするようにつきあって、同じようにヴァーチャルのAmberにも惹かれていくNora、とにかく時間と機会さえあれば誰とでも、みたいなCamille、それぞれに性や愛が食事や会話のようにふつうにあって、それぞれの孤独とか都市生活がどう、とかとはあまり関係がない、そんな若者たち。

セックス/恋愛以外だとÉmilieは、施設にいる認知症の祖母の相手をしてあげるように母親から言われてて、でもなんとなくスルーしてたらある晩に祖母はひとりで亡くなってしまったり、Camilleには吃音のある16歳の妹がいて、でもスタンダップコメディをやりたいというので初めは馬鹿にしていた彼女のケアをしてあげるようになったり、涙や笑いが出てくる日々も、それぞれにいろいろあるよ念のため、って。

そんな中で、有料チャットの、ヴァーチャルな探り合いから始まったNoraとAmber - 本名はLouise - の探り合いのような会話から近づいていってWebカメラを介して添い寝したりする場面の質感は他のエピソードとはやや異なっていて、ここはやはりCéline Sciammaが手がけたパートなのだろう。最後にふたりが直に対面するシーンのはらはらと崩れていくような安堵感ときたら。

ロメールの『モード家の一夜』(1969) - これも2人の女と1人の男の話だった - の舞台を高層ビルのまんなかに持ってきて、ネットを介した即物的なセックスまみれにして、それでも本当の、運命の出会いはあるのかなどと問う - それやっぱり問うか?  っていうようなお話。かも。

Jacques Audiardは、最近のBruno Dumontとかもそうかもだけど、もう痛いやつとかぶん殴るようなやつは撮らないのかしら? そういうのはJulia Ducournauとかに譲るのかしら?

モノクロの画面は美しいのだが、例えばガレルのザラ紙に刷ったようなモノクロとは随分違って、高級感に溢れた色落とししたモノクロのようで、あと最初にAmberが登場するところはけばいカラーだし。ここに被さってくるRone - Erwan Castexの少し昔のdrum'n'bassのスケールをもった音楽がはまっていてかっこよい。

俳優は女性たちがみんなすばらしいのだが、やはりJehnny Bethに釘付けになる。Noraみたいにされるがままになりたい。
 

こんな陽気のくせにもう5月だなんて認めないから。あと半月くらいは。
 

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