5.04.2022

[film] Hard, Fast and Beautiful! (1951)

4月29日にシネマヴェーラの『アメリカ映画史上の女性先駆者たち』から見た4本の続き。後半の2本を。

Ida Lupinoの監督4作め、”Outrage”の次に撮られた作品。
邦題は『強く、速く、美しい』。 原作は1930年のJohn R. Tunisによる小説”American Girl”で、実在した女性テニスプレイヤー Helen Willsをモデルにしたものだそう。

カリフォルニアのサンタモニカに暮らすFlorence Farley(Sally Forrest)は母Millie (Claire Trevor)の強い思いのもと、テニスプレイヤーとしての練習を続けていて、練習中に再会した町の有力者の甥のGordon McKay (Robert Clarke)と対戦して負かしちゃったので、そこから偉い人達を伝ってより大きな大会に出られるようになって、彼女の強さがもたらしてくれる彼らとのコネクションも含めて母の野望は叶えられていくのだが、Florenceとしてはツアーで留守がちになることで病身の父を置き去りにしてしまうのとソーシャルに高慢ちきになっていく母が嫌になっていくのと、なんといってもGordonと無理せずのんびり暮らしたいというのがあって、最後にウィンブルドンに勝ったあとに母親をふっ切ることにして、ふっ切るの。

スポーツの勝負の世界でのしあがること、それによって得られる社会的なステイタスとか成功が必ずしも選手個人の幸せに繋がるものではないこと、例えそれが近しい親からの要請であってもそれに縛られる義理も道理もないのだ、ってはっきりと語って、そこにはなんの無理もないし、少し前の”I, Tonya” (2017)でも最近の”King Richard” (2021) - これは見てないし違うのかもだけど - でもずっとテーマとしてあったような。

映画の力点は母親からの逃れ難い抑圧と積もっていく苦難をじっくり見せるというより最後にそこから解放される彼女の清々しさを鮮やかに切り取る方にあって、”Outrage”もそうだったけどその先を、将来を見せようとするところが素敵ったらないの。

あとテニスのラリーの撮り方とかちっとも古さを感じさせないの。いろいろ試行錯誤したのかも。


Too Wise Wives (1921)

脚本はLois WeberとMarion Orth、監督はLois Weberによるサイレント。 邦題は『賢すぎる妻たち』。

David Graham (Louis Calhern)と妻のMarie (Claire Windsor)の夫婦がいて、Marieは夫のためを思ってできる限り完璧に彼に尽くそうとするタイプで、夫は可能な限りその真摯な要請に応えるべきで、吸うのはパイプではなくて葉巻にしてほしいし、ニットのスリッパを編んだのでそれを履いてほしいし、朝はフライドチキンがいい、と一度彼が言ったのでずっと同じものを出し続けたりしている。彼はこんな自分を愛してくれるはず.. なのだがMarieが会議中の職場にも電話を掛けてきたりするので夫はどうしたものか、になりはじめている。

John Daily (Phillips Smalley)と妻のSara (Mona Lisa)の夫婦はこれと対照的で、Saraは夫がそうしたければそうすれば、って彼のやりたいように泳がせていて、そうすることで彼の信頼を得ている。朝食があんま気に入らなくて食べたくなければ食べなくても別にいい - ランチにとっといて、とか。そのやり方でうまく男を操って自分のものにして地位を築いたSaraは過去にMarieの夫と付き合っていたことがある。

で、そんなMarieとSaraが婦人クラブで会って終わってから一緒に買い物をして、SaraはMarieの子供みたいな純な振る舞いを見てDavidはどうしているかしら? って彼に手紙を書いて再会して昔のことも含めて話したりしたい、って送ると、オフィスに送ったその封筒はDavidの家に届けられてSaraが受け取ってしまう。差出人と封筒にふりかけられた香水からどういう手紙か察知したSaraだが手紙を開けるところまではいかない。

そしてそんなような罠や企みをたっぷり仕込んで週末に2組の夫婦がJohnの家で会うことになって…

結末から言えばタイトル通り”Too Wise Wives”が自らの危機 - 別れるというより嫌われるほうの危機? - を回避しましためでたしめでたし、になるのだろうが、そこまでの妻たちの、更には夫たちの考え方とか行動はなんだかおもしろい、というか因数分解したらそうなるしかないのだろう、だけどねえ - 結婚して他人と暮らすってこんなにもけったいでおかしな.. とか。

舞台劇にしても十分おもしろくなったと思うけど、ふたつの家の中、職場、婦人クラブの会場、ショーウィンドウ、駅、いろんな場所に彼女たちを置いてみることで多層で見えてくる結婚の風景があって、それはずっと後になってベルイマンとかが重厚に切り取ってみせた風景より(やばいところも含めて)シンプルでおもしろいわ、って思った。

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